チョコの官能評価は何人に頼めばいい?108件の消費者試験の分析では、10%の差を見分けるのに112人

試作を社内の10人ほどで食べ比べて、「Bのほうが好評だった」と決めていないでしょうか。人数が少ないと、たまたまの差と本当の差を見分けられません。何人に食べてもらえば足りるのかを、消費者試験の人数を計算した研究で確かめます。
結論
- Hough ら(2006)は、5か国・108件の消費者試験の誤差の大きさを集めて、必要な人数を計算した。尺度の幅の10%の差を、見落としにくい条件(第1種の誤り5%・第2種の誤り10%)で見分けるには112人だった。
- Mammasse と Schlich(2014)は、7つの試験所で150人ずつが5〜6品を評価した試験から人を間引いて調べた。十分な人数は20〜150人と幅があり、比べる品どうしの差が小さく複雑なほど多く要った。
- チョコに限って必要な人数を調べた研究は見つからなかった。消費者の好みの試験の進め方は ISO 11136 という規格にまとまっているが、本文の人数の記述はこの記事では確かめていない。
01 どんな研究か必要な人数は、どうやって計算した?
Hough らは、すでに行われた108件の消費者試験から「点数のばらつき(誤差)」を集め、その大きさがどの試験でも似ていることを示しました。誤差がわかれば、次の試験で何点の差を見分けたいかから、必要な人数を逆算できます。
Hough G, Wakeling I, Mucci A, Chambers E, Gallardo IM, Alves LR(2006)[1]
5か国で行われた、さまざまな食品の好みの試験108件で、分散分析の誤差(平均平方誤差の平方根)を比べると、食品が違ってもよく似ていた。この平均的な誤差を使うと、尺度の10%の差を、第1種の誤り5%・第2種の誤り10%で見分けるのに必要な人数は112人になった。
対象: 既存の消費者の好みの試験108件(5か国、幅広い食品) / 限界: 要旨で照合した。条件ごとの人数の表は本文にあるが、この記事では数字を確かめていない。チョコだけを取り出した計算ではない。
言葉を2つだけ説明します。第1種の誤りは、本当は差がないのに「差がある」と判断してしまうこと。第2種の誤りは、本当は差があるのに見落とすことです。112人という数字は、第1種を5%、第2種を10%に抑え、尺度の幅の10%(9段階なら約0.8点)の差を見分けたいときの1つの例です[1]。
見分けたい差を小さくするほど、必要な人数は増えます。一般的な統計の性質として、必要な人数はおおよそ「差の2乗」に反比例するので、見分けたい差を半分にすると約4倍の人数が要ります(この倍率は計算の一般則で、論文の表の数字ではありません)。
02 わかった数字人数は何で増えたり減ったりする?
Hough らの計算では112人が1つの目安でした。150人の試験を間引いた研究では、十分な人数は20〜150人と幅があり、その差は比べる品の差の大きさでほぼ決まっていました。
Mammasse と Schlich は、7つの試験所がそれぞれ150人に5〜6品を評価してもらった試験を使いました[2]。脂肪分と甘さを変えた品(2種類を2つの試験所で)と、味と食感を変えた品(3種類)です。150人から10人ずつ減らした組を1000回ずつ作り、品の平均点の並び、品どうしの位置関係、差の見分けやすさ、2品ずつ比べたときの結論の一致率がどこまで保てるかを見ました。
人の好みのばらつきは7試験で似ていたので、必要な人数の違いは主に「品どうしの感覚の差」で生まれた、と著者らはまとめています[2]。差が大きい品の組なら20人ほどでも結論が保たれ、差が小さく複雑な品の組では150人近くが必要でした。よく勧められる「50〜100人」は、どの試験にも当てはまる数ではないということです。
このメディアで紹介したチョコの試食研究の人数を並べると、多くが36〜116人の範囲でした(下の表)。これは各研究の人数を並べたもので、どれが足りているかを判断したものではありません。
| 研究 | 人数 | 比べたもの |
|---|---|---|
| Markey ら 2015 | 116人 | 砂糖を減らしたチョコと元のチョコ(記事) |
| Torres-Moreno ら 2012 | 109人 | ダークチョコ6種、表示あり・なし(記事) |
| Brown ら 2023 | 108人 | カカオ70%で脂肪分3段階(記事) |
| Di Monaco ら 2005 | 79人(40人と39人の2組) | チョコバー3種、値段・健康の表示(記事) |
| Kampfer ら 2017 | 78人 | 重い箱と軽い箱(記事) |
| Gunaratne ら 2019 | 75人 | 包みのデザインと購入意向(記事) |
| Galak ら 2013 | 45人 | 食べる間隔と好き度の下がり方(記事) |
| Enax ら 2015 | 38人 | 同じチョコに表示だけ変える(記事) |
| Xiao ら 2025 | 36人 | 箱の開け方や香り(記事) |
各記事で原典と照合した人数。分析に使われた人数で、集めた人数と違う研究がある。
03 開発への使い方試作の評価で、人数をどう決める?
先に「何点の差なら配合を変える価値があるか」を決め、過去の自社の試験の誤差から人数を逆算します。差の小さい試作どうしを比べるほど人数が要るので、変える条件は1つに絞ります。
変える条件を1つにして、試作どうしの差を大きくしておく
砂糖・脂肪分・焙煎などを同時に変えると、差の原因がわからないうえ、品どうしの差が複雑になり人数が増えます。1条件だけを、差がはっきり出る幅で動かします。研究でも、品の差が大きいほど少ない人数で結論が保てました [2]。
目安 1回の評価で比べる試作は3〜6品
見分けたい差を決め、自社の誤差で人数を計算する
「9段階で1点以上の差なら採用」のように、意味のある差を先に決めます。過去の自社の消費者試験の誤差を記録しておけば、Hough らと同じ考え方で次の人数を計算できます。記録がないうちは、Hough らがチョコに限らない食品全般の試験の平均的な誤差から出した112人(尺度の10%の差を、第1種の誤り5%・第2種の誤り10%で見分ける条件での計算値)を1つの目安にし、まず小さく試して自社の誤差を測る手もあります。
目安 試験ごとに、平均点・誤差・人数を残す
社内の訓練パネルと、買う人の好みの試験を分ける
苦み・甘さの強さを測るのは少人数の訓練パネルでも、買う人の好みは消費者に聞きます。出す順番を人ごとに入れ替え、同じ大きさ・温度で出し、水で口をすすいでもらう手順は、このメディアで紹介した研究でも使われています(例: Torres-Moreno ら)。結果を「〇人中〇人が好んだ」と外に出すなら、人数・条件・尺度を一緒に書きます。
目安 社内パネルは強さ、消費者は好みと購入意向
研究は食品全般の消費者試験で、チョコの試作、社内の設備、想定する買い手とは条件が違います。人数は「この差をこの確からしさで見分けたい」という決め方の手がかりとして使い、自社の試験で確かめてください。究極のチョコの3条件(もう一度食べたくなる・あげたくなる・また買いたくなる)は、どれも人の評価で確かめるものなので、人数の決め方はすべての評価の土台になります。評価の記録には食べ比べノートも使えます。
04 まだわからないこと人数の研究で、決まっていないことは?
チョコに限って必要な人数を計算した研究は、今回の調べでは見つかりませんでした。好みの尺度の選び方や、規格の人数の記述も、この記事では原典で確かめきれていません。
- チョコの消費者試験だけで誤差を集め、必要な人数を計算した研究は見つかりませんでした。チョコの誤差が食品全般と同じかはわかりません。
- Hough らの条件ごとの人数の表は、本文を開けず確かめていません。この記事の数字は要旨にある112人だけです。
- 好みが人によって分かれる(例: ダーク好きとミルク好き)ときに何人要るかは、間引きの研究でも対象外でした。
- 9段階の尺度とほかの尺度のどれを使うかは、尺度を比べた総説 [3] で測りたいものに合わせて選ぶものとして整理されていますが、チョコで比べた研究は見つかりませんでした。
- ISO 11136(消費者の好みの試験の進め方)と、表示の裏付けに使う官能試験の指針(ASTM E1958)は、本文を確かめていません。
05よくある質問
チョコの試食は何人でやればいい?
Hough ら(2006)が108件の消費者試験の誤差から計算すると、尺度の10%の差を第1種の誤り5%・第2種の誤り10%で見分けるには112人でした。ただし150人の試験を間引いた研究では、十分な人数は20〜150人と幅があり、比べる品の差が大きいほど少なくて済みました。
社内の10人で食べ比べるのはだめ?
苦みや甘さの強さを測る訓練パネルなら少人数でも使われますが、買う人の好みを10人で決めると、たまたまの差と本当の差を見分けにくくなります。見分けたい差が小さいほど多くの人数が要ります。
「50〜100人」という目安は正しい?
消費者の好みの試験でよく勧められる幅ですが、Mammasse と Schlich(2014)の7試験では、十分な人数は20〜150人と試験ごとに違いました。その違いは主に、比べる品どうしの感覚の差の大きさで生まれていました。
出典
- Hough G, Wakeling I, Mucci A, Chambers E, Gallardo IM, Alves LR (2006). Number of consumers necessary for sensory acceptability tests. Food Quality and Preference, 17(6), 522–526. https://doi.org/10.1016/j.foodqual.2005.07.002
- Mammasse N, Schlich P (2014). Adequate number of consumers in a liking test. Insights from resampling in seven studies. Food Quality and Preference, 31, 124–128. https://doi.org/10.1016/j.foodqual.2012.01.009
- Lim J (2011). Hedonic scaling: A review of methods and theory. Food Quality and Preference, 22(8), 733–747. https://doi.org/10.1016/j.foodqual.2011.05.008
- ISO 11136:2014. Sensory analysis — Methodology — General guidance for conducting hedonic tests with consumers in a controlled area.(範囲の記述のみ確認) https://www.iso.org/standard/50125.html


