また買いたくなるのは何を覚えているから?クラッカーの実験では、最後の一口の記憶が「次はいつ食べたいか」を左右した

買う人は、店の棚の前で「この前のあのチョコ、おいしかったな」と思い出して手に取ります。また買うかどうかを決めるのは、食べている最中の気持ちそのものではなく、あとから思い出す「おいしかった記憶」だと考えられます。だとすると、試食のその場の点数だけでは「また買いたい」は読みきれません。食べ物の記憶を調べた研究では、記憶は食べた体験をそのまま写したものではなく、特定の瞬間に引っぱられることがわかってきました。チョコで直接調べた研究はまだないので、近い食べ物の研究から、試食の組み方と内容量を決める人に向けて読みます。
結論
- スタンフォード大学などの実験で、学生134人がクラッカーを3枚か15枚食べると、15枚の組は最後のおいしさが低く、同じ品をもらう時期を遅く選んだ。著者らは、最後の時点の記憶が一口目の記憶を押しのけると考えている。
- 英国の64人の研究では、食べた翌日に思い出したおいしさは、食べていたときより低いことが多く、一番おいしくなかった一口などに引っぱられた。思い出したおいしさは、その場の評価より「次も楽しめそうか」とよく結びついた。
- 食事の記憶には「最後」が効かなかったという研究もあり、結果は分かれている。チョコの記憶と、実際にまた買うかを結びつけた研究は見つからなかった。
01 どんな研究か「また食べたい」は、いつの記憶で決まる?
最後のほうの記憶でした。スタンフォード大学などの Garbinsky らは、同じクラッカーを少しだけ食べた人と、たくさん食べた人を比べ、次にその品をいつほしいかを選んでもらいました。たくさん食べて最後に飽きていた人ほど、次を遅く選びました。
Garbinsky EN, Morewedge CK, Shiv B / スタンフォード大学 経営大学院ほか(2014)[1]
3つの実験の1つ目では、学生が3種類の味のナッツ入りクラッカーを試し、1つの味を選んで3枚か15枚食べた。1枚ごとにおいしさを付け、最後に、同じ品の詰め合わせをいつ受け取りたいかを選んだ。15枚の組は終わりのおいしさが低く、受け取りの時期を遅く選んだ。
対象: 大学生134人 / 限界: クラッカーとジュースの実験で、チョコではない。「いつ受け取りたいか」は実際の購入ではない。数字の細部は本文を読めず、要旨と、論文を載せた学会の紹介記事で確かめた。
ふつうに考えると、15枚食べた人も最初の数枚はおいしかったはずです。それなのに次を遅く選んだのは、記憶の中で「最後のほうの飽きた感じ」が「最初のおいしさ」を上書きしたからだ、と著者らは説明しています[1]。要旨では、最も満腹に近い最後の瞬間の記憶が、最初の瞬間の記憶を妨げると書かれています。
別の実験では、ジュースを約30mlずつ飲み、一口ごとに点数を付けました。途中で「前に付けた点数」を見せてもらった組は、最初の一口がどれだけおいしかったかを正しく覚えていて、同じジュースを早めにほしいと選びました[1]。最初のおいしさを思い出せると、次が早くなったのです。
02 わかった数字食べたときと思い出したときで、おいしさはどれだけずれる?
ずれることがよくあります。英国の64人の研究では、3つのお菓子のうち2つで、翌日に思い出したおいしさが食べていたときより低くなりました。思い出したおいしさは、その場の点数より「次も楽しめそうか」の予想とよく結びつきました。
記憶は一番悪い一口に引っぱられることも リバプール大学の Robinson は、64人に塩味・甘い・甘じょっぱいの3つのお菓子を食べてもらい、食べる前の期待と、食べている最中のおいしさを付けてもらいました[2]。24時間後に思い出したおいしさは、期待や「一番おいしくなかった一口」などに引っぱられていました。ただ、どの瞬間が効くかはお菓子によって違いました。
「最後」が効かない研究もある ペンシルベニア大学の Rode らは、実際の食事2つと想像の食事1つで、料理ごとのおいしさと、あとで思い出したおいしさを比べました[3]。3つとも、一番おいしかった皿や、最初や最後の皿が記憶を左右する様子は見られませんでした。好きな料理を長く食べても、記憶はほとんど変わりませんでした(長さの無視)。複数の料理を食べる食事と、1つの品を食べ続ける場面では、記憶のでき方が違うのかもしれません。
03 開発への使い方「あとで思い出すおいしさ」を、試作の評価にどう入れる?
その場の点数に加えて、最後の一口の点数と、翌日に思い出したおいしさを測ることです。記憶は最後や一番悪かった一口に引っぱられることがあり、その場の平均点とはずれます。
配合・工程: 内容量を「食べ終わりの印象」の条件として試す
クラッカーを15枚食べた人は、3枚の人より最後のおいしさが低く、次を遅く選びました[1]。1袋・1箱の量は、食べ終わりの印象を動かしうる条件です。同じ配合で内容量だけを変えた試作を比べます。チョコで確かめた結果ではないので、試作で確かめる価値がある条件として扱います。量と飽き方は一口目と三口目でおいしさは変わる?にまとめています。
目安 内容量2〜3段階。配合は固定
評価: 一口目・最後の一口・翌日の記憶を分けて測る
一口目と最後の一口に別々に点数を付けてもらい、24時間後に思い出したおいしさと「次も楽しめそうか」を聞きます[2]。翌日に思い出したおいしさは、その場の点数より次の予想とよく結びつきました[2]。食べた直後に「何がおいしかったか」を思い返させると記憶のおいしさが上がったので[4]、試作どうしで聞き方をそろえ、思い返す質問は入れない回と入れる回を混ぜないようにします。
目安 当日2つの点数+翌日の聞き取り1回
品質管理・表示: 記憶を操作する手でなく、最後まで中身で勝つ
おいしかった点を思い返させると記憶が上がる、という結果を、包装の言葉で記憶を引き上げる手に使うことは勧めません。中身が同じなら、記憶だけが上がっても次の体験でずれます。量産では、最後の一口まで品質がそろうように、ロット内のばらつきを管理します。
目安 同じロットの最初と最後の製品を比べる
研究の条件は、大学生134人のクラッカーとジュース、英国の64人のお菓子3種類で、チョコではありません。自社の製品や買い手とは違い、実際の購入も追っていないので、試作の段階で使う目安にとどめます。最後の一口までおいしい記憶が残るチョコは、店で思い出してもらいやすいはずです。研究で直接確かめられてはいませんが、究極のチョコの条件の1つ「もう一度買いたくなる」に近づく手がかりになりえます。試食のその場で「買いたい気持ち」が何と結びつくかはもう一度買いたくなるチョコは何で決まる?で読めます。社内の試食記録には食べ比べノートも使えます。
04 まだわからないことチョコの記憶と「また買う」は、つながっている?
確かめられていません。食べたチョコの記憶を測り、そのあと本当にまた買ったかを追った研究は、今回の調べでは見つかりませんでした。
- 主役の研究はクラッカーとジュースで、学生の実験です。チョコで同じことが起きるかはわかりません。
- 「最後の記憶が効く」という研究と、「最後は効かない」という研究があり、結果は分かれています。1つの品を食べ続けるか、いろいろな料理を食べるかで違う可能性がありますが、確かめられていません。
- 研究で測ったのは「いつほしいか」「次も楽しめそうか」「翌日どれだけ選ぶか」までで、店での購入ではありません。
- 甘さ・苦さ・口どけのどれが記憶に残りやすいかを比べた研究は見つかりませんでした。食べ飽きの研究はもう一度食べたくなるチョコは何が違う?で整理しています。
05よくある質問
次にまた食べたくなる時期は、何で決まる?
研究では、次にいつ食べたいかは、食べた体験の最後のほうの記憶に左右されやすいと報告されています。クラッカーを3枚だけ食べた学生は、15枚食べた学生より、同じ品を早めにほしいと選びました。チョコで同じ実験をした研究は見つかりませんでした。
一度に食べた量が多いと、次にほしくなる時期は遅れる?
クラッカーの研究では遅れました。ただし食べた量の研究で、内容量を変えた研究ではありません。15枚食べた組は、最後のおいしさが低く、同じ品を受け取る時期を遅く選びました。著者らは、満腹に近い最後の記憶が、最初のおいしさの記憶を押しのけると考えています。
試食のその場の点数と、あとで思い出すおいしさは同じ?
ずれることがあります。英国の64人の研究では、3つのお菓子のうち2つで、翌日に思い出したおいしさが食べていたときより低くなりました。一番おいしくなかった一口などに引っぱられることもありました。
出典
- Garbinsky EN, Morewedge CK, Shiv B (2014). Interference of the end: why recency bias in memory determines when a food is consumed again. Psychological Science, 25(7), 1466–1474.(実験の内容は Association for Psychological Science の紹介記事 https://www.psychologicalscience.org/news/releases/its-the-last-bite-that-keeps-you-coming-back-for-more.html で確認) https://doi.org/10.1177/0956797614534268
- Robinson E (2014). Relationships between expected, online and remembered enjoyment for food products. Appetite, 74, 55–60. https://doi.org/10.1016/j.appet.2013.11.012
- Rode E, Rozin P, Durlach P (2007). Experienced and remembered pleasure for meals: duration neglect but minimal peak, end (recency) or primacy effects. Appetite, 49(1), 18–29. https://doi.org/10.1016/j.appet.2006.09.006
- Robinson E, Blissett J, Higgs S (2012). Changing memory of food enjoyment to increase food liking, choice and intake. British Journal of Nutrition, 108(8), 1505–1510. https://doi.org/10.1017/s0007114511007021


