体と安全

「高カカオ=体にいい」と表示していい?食品表示基準は、保健機能食品以外に機能の表示を認めていない

約9分で読めます / 主役の研究: Ebneter et al. 2013

研究の確かさ ★★☆ 中論文2本と法令・公的資料4件を照合
器に入ったカカオニブ
Photo: Ll1324 / CC0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された論文と公的機関の資料をAIが開いて読み、数字を照合して整理しました(商品の紹介はしていません。出典は末尾)。

高カカオのチョコは「体によさそう」と受け取られがちです。開発の側では、どこまでが配合の事実で、どこからが健康の効果の表示になるのかを、はっきり分けておく必要があります。法令と消費者庁の資料の原典で言えること・言えないことを分け、表示が健康の印象を作ることを示した研究も紹介します。

結論

  1. 食品表示基準 第9条第1項第10号は、保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品及び栄養機能食品)以外の食品について、「保健機能食品と紛らわしい名称、栄養成分の機能及び特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語」を、一般用加工食品の容器包装に「表示してはならない」と定めている。ふつうのチョコの包装に「血流を助ける」と書けば、この「特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語」に当たるおそれがある。
  2. 健康増進法 第65条第1項は、食品として販売に供する物の広告その他の表示で、健康の保持増進の効果などについて「著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない」と定める。消費者庁の留意事項は、名称やキャッチフレーズ、学者の談話や学説の引用で効果をほのめかす表示も、効果の表示に当たるとしている。
  3. Ebneter ら(2013)の175人の実験では、同じチョコ菓子に「低脂肪」と表示すると、カロリーを少なく見積もり、健康によいと受け取った。高カカオの表示そのものの効き目を調べた研究は見つからなかった。

01 どんな研究か表示1つで、健康の印象はどう変わった?

Ebneter らは、女子大学生175人を4つの組に分け、同じチョコ菓子に「低脂肪」か「ふつう」の表示、カロリーの情報のあり・なしを組み合わせて出しました。食べた量、カロリーの見積もり、味の好み、健康の印象を比べています。

Ebneter DS, Latner JD, Nigg CR(2013)[1]

「低脂肪」と表示されたチョコ菓子は、カロリーを実際より少なく見積もられ、健康によいと受け取られた。健康の印象は、カロリーの情報があってもなくても高かった。食べた量の差は、統計的にははっきりしなかった。

対象: 女子大学生175人。2×2の4組にランダムに分けた / 限界: 要旨で照合した。表示は「低脂肪」で、カカオ分や高カカオの表示ではない。1回の実験で、点数の詳しい値は確かめていない。

カロリーの情報がある組では、「低脂肪」と表示された方が、おいしいと評価されました[1]。著者らは、低脂肪の食品にまつわる「健康のよい印象(ヘルスハロー)」が、ほかの判断まで引っぱった可能性を挙げています。

健康と関係のない表示でも同じことが起きます。Schuldt ら(2012)の研究では、チョコを「フェアトレード」と説明すると、カロリーが少ないと判断されました[2]。表示が、書かれていない健康の印象まで作ることがある、ということです。フェアトレードの表示と味の研究はフェアトレードの表示で味の感じ方は変わる?へ。

02 わかった数字表示のルールでは、何が書けない?

保健機能食品以外の食品は、栄養成分の機能や特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語を、容器包装に表示してはならないと定められています。健康の効果を名前やキャッチフレーズ、研究の引用でほのめかすことも、効果の表示として扱われます。特定の言葉を一律に禁じるのではなく、表示全体で判断されます。

第9条第1項第10号食品表示基準。保健機能食品以外の食品に、栄養成分の機能・特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語を「表示してはならない」[3]
第65条第1項健康増進法。健康の保持増進の効果などについて、著しく事実に相違する表示・著しく人を誤認させるような表示を「してはならない」[4]
175人「低脂肪」の表示でカロリーを少なく見積もった実験の人数 [1]
令和4年12月5日消費者庁の健康食品の留意事項の最新の一部改定日 [5]
表示の例扱い根拠
カカオ分72%(配合の事実)事実なら書ける。ただし健康と結び付けない規約 第2条第17項(カカオ分の定義)[6]
「血流を助ける」「老化防止」などの機能・効果保健機能食品以外は、容器包装に「表示してはならない」用語に当たるおそれ食品表示基準 第9条第1項第10号 [3]、留意事項 [5]
研究者の談話や論文を引いて、効果をほのめかす効果の表示に当たる留意事項 第2の2⑶オ [5]
「特濃」「濃厚」客観的な根拠がないと不当な表示規約 第5条第9号 [6]

法令と公的資料の原文から整理。個別の表示が当たるかは、表示全体で判断される(留意事項 [5])。

消費者庁の留意事項は、過去の措置で「合理的な根拠」と認められなかった例を挙げています[5]。その中に、成分の研究論文を出したが、論文の参加者が取った量と商品に入っている量が大きく離れていた例、動物実験のデータでヒトでの効果を示していなかった例があります。カカオの研究は抽出物や高い量を使うものが多く、カカオの健康効果はどこまで本当?で見たように、ふつうのチョコにどれだけ入っているかは製品ごとにわかりません。

機能性表示食品について、留意事項は「国が審査して許可したものではない」と書いています[5]。届け出た表示を超える表示や、国の許可を受けたと誤解させる表示は、虚偽誇大表示等に当たるおそれがあります。

03 開発への使い方高カカオの製品で、表示と中身をどうそろえる?

カカオ分などの配合の事実と、健康の効果の表示を分けて扱います。健康を言うなら保健機能食品の制度に乗る必要があり、そうでないなら効果をほのめかす言葉や研究の引用を包装に使いません。

1

配合と工程で、測れる成分を測っておく

高カカオを打ち出すなら、カカオ分に加えて、脂肪分や、必要ならポリフェノールなどの成分を自社で測ります。焙煎などの工程で成分は変わるので、試作ごとに記録します(焙煎や加工でカカオのポリフェノールはどれだけ減る?)。

目安 規格値とロットごとの実測値を残す

2

健康の表示のあり・なしで、味と購入意向を別々に測る

表示が健康の印象を作るなら、評価でもそれが混ざります。味の評価は表示を伏せて取り、表示を見せた評価は別に取ります。健康の表示でチョコバーのおいしさの評価が変わらなかった研究は値段が高いとチョコはおいしく感じる?で紹介しています。

目安 表示なし→表示ありの2段階

3

包装・説明で、効果をほのめかさない

保健機能食品でないなら、機能や保健の目的を書きません。商品名やキャッチフレーズ、研究者の談話、論文の引用で効果を連想させる表示も避けます。「カカオ分72%」のような配合の事実は、健康の言葉と並べず、味の説明として書きます。判断に迷う表示は、全国チョコレート業公正取引協議会や消費者庁の資料で確かめます。

目安 包装の案ごとに、表示全体で読み直す

研究は女子大学生のチョコ菓子の実験で、高カカオのダークチョコや日本の買い手とは条件が違います。表示で中身以上に健康そうに見せることは勧めません。買う人の期待と中身がそろっていることは、究極のチョコの条件「もう一度買いたくなる」の前提です。重金属など体と安全のほかの話はダークチョコの鉛やカドミウムは心配?にまとめています。

04 まだわからないこと高カカオの表示の研究で、足りないことは?

「高カカオ」「カカオ○%」の表示が、健康の印象やカロリーの見積もりをどう変えるかを、チョコで直接調べた研究は今回の調べでは見つかりませんでした。法令の扱いも、個別の表示ごとに判断されます。

  • カカオ分の数字や「高カカオ」の言葉だけで、健康の印象が上がるかを調べた研究は見つかりませんでした。
  • Ebneter らと Schuldt らの研究は要旨で照合し、点数の詳しい値や、参加者の国は確かめていません。
  • 日本の買い手が高カカオのチョコをどれだけ健康と結び付けているかの調査は、今回は確かめていません。
  • この記事は法令の条文と消費者庁の資料を整理したもので、個別の表示が違反になるかを判断したものではありません。

この記事は法的な助言ではありません。表示は消費者庁・全国チョコレート業公正取引協議会など所管の機関に確かめてください。

テンパリング温度ガイド研究一覧を見る

05よくある質問

ふつうのチョコに「体にいい」と書ける?

食品表示基準 第9条第1項第10号は、保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品及び栄養機能食品)以外の食品について、栄養成分の機能及び特定の保健の目的が期待できる旨を示す用語を容器包装に「表示してはならない」と定めています。健康増進法 第65条第1項も、健康の保持増進の効果などについて「著しく人を誤認させるような表示をしてはならない」と定めています。

「カカオ分72%」と書くのは問題ない?

カカオ分は規約で定義された配合の事実なので、事実どおりなら書けます。ただし健康の言葉と並べて効果をほのめかすと、表示全体で健康の効果の表示と受け取られるおそれがあります。

論文を引用して健康の話を書いてもいい?

消費者庁の留意事項は、学者の談話や学説を引用して効果をほのめかすことも、健康の効果の表示に当たるとしています。論文の参加者が取った量と商品の量が大きく離れている資料は、合理的な根拠と認められなかった例として挙げられています。

出典

  1. Ebneter DS, Latner JD, Nigg CR (2013). Is less always more? The effects of low-fat labeling and caloric information on food intake, calorie estimates, taste preference, and health attributions. Appetite, 68, 92–97. https://doi.org/10.1016/j.appet.2013.04.023
  2. Schuldt JP, Muller D, Schwarz N (2012). The “fair trade” effect: Health halos from social ethics claims. Social Psychological and Personality Science, 3(5), 581–589. https://doi.org/10.1177/1948550611431643
  3. 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)第9条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/427M60000002010
  4. 健康増進法(平成14年法律第103号)第65条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000103
  5. 消費者庁. 健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について(令和4年12月5日一部改定). https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/assets/representation_cms213_241001_01.pdf
  6. 全国チョコレート業公正取引協議会. チョコレート類の表示に関する公正競争規約・同施行規則(令和6年10月1日施行の変更を含む版). 一般社団法人 全国公正取引協議会連合会 掲載. https://www.jfftc.org/DATA/Kiyaku_pdf/e01_H_choco.pdf