焙煎と練り

焙煎や加工でカカオのポリフェノールはどれだけ減る?豆の測定では190℃40分でエピカテキンが98.6%減った

約7分で読めます / 主役の研究: Stanley ら 2018

研究の確かさ ★★☆ 中論文5本を照合
カカオ豆とココアパウダー
Photo: formulatehealth / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された論文と公的機関の資料をAIが開いて読み、数字を照合して整理しました(商品の紹介はしていません。出典は末尾)。

カカオ豆にはポリフェノールが多いことが知られています。けれど豆がチョコになるまでには、発酵・乾燥・焙煎・練る工程があります。工程を決める開発者にとって、そのあいだにどれだけ残るかは知っておきたい点です。米国の大学の測定では、190℃で40分焙煎した豆は、ポリフェノールの一種エピカテキンが98.6%減りました。ポリフェノール全体の減り方は、10〜40%ほどでした。

結論

  1. ペンシルベニア州立大学のStanleyら(2018)が豆を100〜190℃で40分焙煎すると、ポリフェノール全体は9.7〜39.9%減った。エピカテキンは130℃以上ではっきり減り、190℃40分で98.6%減った。
  2. 減り方は工程で大きく違う。菓子メーカーの研究所の測定では、発酵した豆は発酵していない豆よりカテキン類が80%超少なく、アルカリ処理(ココアの色を濃くする加工)ではエピカテキンが最大98%減った。
  3. 減った分が別の成分に変わることもあり、「何%残ればよいか」は決まっていない。製品にどれだけ残るかは、自社の豆と工程で測るしかない。

01 どんな研究か何℃・何分の焙煎で、何を測った?

Stanleyら(2018)は、ドミニカ共和国産のトリニタリオ種の豆を、100〜190℃の5段階と10〜40分の4段階で焙煎しました。そして、ポリフェノール全体の量と、エピカテキンなど個別の成分の量を測りました。

Stanley TH ほか / ペンシルベニア州立大学(米国)(2018)[1]

40分の焙煎で、ポリフェノール全体は100℃で9.7%、130℃で18.5%、150℃で12.5%、170℃で29.3%、190℃で39.9%減った。エピカテキンは温度と時間に応じて減り、190℃40分では焙煎前の98.6%が失われた。

対象: 5日発酵して乾かした豆1種類。各条件3回ずつ焙煎 / 限界: 豆の段階の測定で、チョコにした後の量ではない。190℃以外は、同じ温度の中で時間による差ははっきりしなかった。

減るだけではありません。エピカテキンが減る一方で、よく似た形のカテキンは焙煎で増えました。170℃20分では、焙煎前より590%多くなりました[1]。熱で、エピカテキンの一部がカテキンに形を変えたと考えられています。より大きくつながったポリフェノール(プロアントシアニジンの6量体・7量体)も、150℃以上で増えました。

研究費は米国国立衛生研究所や米国農務省などから出ています。豆は米国のチョコ会社を通じて入手したものです。

02 わかった数字どの工程で、どれくらい減る?

大きく減るのは発酵とアルカリ処理で、焙煎は温度しだいです。練る工程(コンチング)では、ほとんど変わらなかったと整理されています。

9.7〜39.9%40分の焙煎でポリフェノール全体が減った割合(100〜190℃。Stanleyら 2018)
98.6%同じ研究で、190℃40分の焙煎でエピカテキンが減った割合
80%超発酵した豆で、発酵していない豆よりカテキンとエピカテキンが少なかった割合(Payneら 2010)
34.6→3.9mgココアパウダー1gあたりのフラバノール。アルカリ処理なし→強い処理の平均(Millerら 2008)
工程わかったこと出典
発酵カテキンとエピカテキンが80%超減少Payneら 2010
乾燥エピカテキンとカテキンへの影響は小さかった。一方、天日乾燥でポリフェノールが44〜77%減ったとする報告もあるPayneら 2010/Di Mattiaら 2017(総説)
焙煎豆の中が70℃を超えるとエピカテキンがはっきり減り始めた。品種と温度により、フラバノールの単量体は0〜95%減るPayneら 2010/Di Mattiaら 2017
アルカリ処理エピカテキン最大98%、カテキン最大80%減少Payneら 2010
コンチング約3%の小さな変化で、はっきりした差ではなかったDi Mattiaら 2017

豆の産地・品種・測り方が研究ごとに違うため、数字を足し合わせて「最後に何%残るか」を計算することはできません。

発酵とアルカリ処理 Payneらは、コートジボワール産とパプアニューギニア産などの豆で、工程ごとにエピカテキンとカテキンを測りました[2]。120℃まで焙煎すると、カテキンは焙煎前より640〜696%増えました。アルカリ処理(オランダ式とも呼ばれる、ココアを中和して色を濃くする加工)では、エピカテキンが最大98%減りました。この研究とMillerらの研究は、どちらも米国の菓子メーカーの研究所の研究者によるものです。

Millerらは、市販のココアパウダーをアルカリ処理の強さで4つに分けて測りました[3]。フラバノールの平均は、処理なしで1gあたり34.6mg、弱い処理で13.8mg、中くらいで7.8mg、強い処理で3.9mgでした。処理が強い(pHが高い)ほど、まっすぐに減っていました。

温度と時間の組み合わせ イタリアのテーラモ大学などのIoannoneらは、125・135・145℃で、豆の水分が同じになるまで焙煎しました[4]。温度が高いほど減る速さは上がりましたが、水分が同じところで比べると、高温で短く焙煎したほうがプロアントシアニジンの減りは小さくなりました。

03 開発への使い方ポリフェノールを残したいとき、工程と測定をどう組む?

減り方が大きい工程(発酵・アルカリ処理・高温の焙煎)を1つずつ見直し、工程ごとに測ることです。ポリフェノールを残すほど苦み・渋みが残る面もあるので、味とのつり合いを官能評価で確かめます。

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配合・工程: アルカリ処理の強さと、焙煎の温度・時間を1つずつ動かす

ココアパウダーでは、アルカリ処理なしの1gあたり34.6mgから、強い処理では3.9mgまでフラバノールが減りました[3]。焙煎は、豆の水分が同じところで比べると、高温で短く焙煎したほうがプロアントシアニジンの減りが小さくなりました[4]。一方で、弱い焙煎は苦み・酸味・渋みが残り、砂糖なしのチョコの試食では好まれませんでした(焙煎が強いほどおいしい?)。

目安 1条件2〜3段階。豆と配合は固定

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評価: 総量だけでなく、成分を分けて測る

焙煎でエピカテキンは減りましたが、カテキンや大きなプロアントシアニジンは増えました[1]。ポリフェノール全体の量に加えて、エピカテキン・カテキン・プロアントシアニジンを分けて測ると、減ったのか形を変えたのかが見えます。官能評価では、訓練したパネルで渋みと苦みの強さを付け、測定値と並べます。

目安 焙煎前・焙煎後・製品の3点で測る

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品質管理・表示: カカオ分で量を決めつけず、測った値で書く

同じカカオ分でも、発酵・焙煎・アルカリ処理の違いで量は大きく変わります。含有量を製品の特徴にするなら、ロットごとに測った値を根拠にし、豆や工程を変えたら測り直します。健康によいとうたう表示はしません。健康にかかわる表示のきまりは、この記事では原典を確かめていません。

目安 豆のロット・工程が変わるごと

Stanleyらの数字は、ドミニカ共和国産1種類の豆を研究室で焙煎した豆の段階の測定で、PayneらとMillerらは米国の菓子メーカーの研究所の研究者による測定です。自社の豆と工程では、試作で確かめる価値がある方向として使います。カカオの健康効果の大規模試験はカカオの健康効果はどこまで本当?に、発酵については発酵しないとチョコの香りは出ない?にまとめています。

04 まだわからないこと「どれだけ残っていればよいか」はわかっている?

わかっていません。減った量はわかっても、どれだけあれば体に意味があるかは、チョコを食べる量では確かめられていません。研究ごとに豆と測り方も違います。

  • カカオの健康の研究の多くは、抽出物のカプセルや特別に作ったココアを使っています。市販のチョコの量で同じことが言えるかはわかりません。
  • 焙煎でエピカテキンは減りますが、カテキンや大きなポリフェノールは増えました。減った分の一部が別の成分に変わっており、「減った=悪い」とは言い切れません。
  • 乾燥の影響は研究で結果が分かれています(影響は小さい/44〜77%減る)。
  • 今回読んだ研究は工程ごとの測定で、同じ豆を発酵から板チョコまで通して測ったものではありません。

テンパリング温度ガイド研究一覧を見る

05よくある質問

焙煎するとカカオのポリフェノールはなくなる?

なくなりはしません。ドミニカ共和国産の豆の研究では、40分の焙煎でポリフェノール全体は9.7〜39.9%減りました。ただしエピカテキンという成分は190℃40分で98.6%減りました。

ポリフェノールが一番減る工程は?

測った研究では、発酵(カテキン類が80%超減少)とアルカリ処理(エピカテキン最大98%減少)で大きく減りました。練る工程(コンチング)ではほとんど変わらなかったと整理されています。

ポリフェノールが多いことを、製品の売りにしてよい?

含有量を書くなら、自社の製品で測った値にします。健康の研究の多くは抽出物や特別なココアを使っており、製品の量で体に効くことの根拠にはなりません。健康にかかわる表示のきまりは、この記事では原典を確かめていません。大規模試験の結果は別の記事にまとめています。

出典

  1. Stanley TH, Van Buiten CB, Baker SA, Elias RJ, Anantheswaran RC, Lambert JD (2018). Impact of roasting on the flavan-3-ol composition, sensory-related chemistry, and in vitro pancreatic lipase inhibitory activity of cocoa beans. Food Chemistry, 255, 414–420. https://doi.org/10.1016/j.foodchem.2018.02.036
  2. Payne MJ, Hurst WJ, Miller KB, Rank C, Stuart DA (2010). Impact of fermentation, drying, roasting, and Dutch processing on epicatechin and catechin content of cacao beans and cocoa ingredients. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 58, 10518–10527. https://doi.org/10.1021/jf102391q
  3. Miller KB, Hurst WJ, Payne MJ, Stuart DA, Apgar J, Sweigart DS, Ou B (2008). Impact of alkalization on the antioxidant and flavanol content of commercial cocoa powders. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 56, 8527–8533. https://doi.org/10.1021/jf801670p
  4. Ioannone F, Di Mattia CD, De Gregorio M, Sergi M, Serafini M, Sacchetti G (2015). Flavanols, proanthocyanidins and antioxidant activity changes during cocoa (Theobroma cacao L.) roasting as affected by temperature and time of processing. Food Chemistry, 174, 256–262. https://doi.org/10.1016/j.foodchem.2014.11.019
  5. Di Mattia CD, Sacchetti G, Mastrocola D, Serafini M (2017). From Cocoa to Chocolate: The Impact of Processing on In Vitro Antioxidant Activity and the Effects of Chocolate on Antioxidant Markers In Vivo. Frontiers in Immunology, 8, 1207. https://doi.org/10.3389/fimmu.2017.01207