発酵しないとチョコの香りは出ない?豪州の研究室の実験では、酵母を止めた豆のチョコは酸っぱかった

カカオ豆は、とってすぐに焙煎してもチョコらしい香りになりません。収穫した豆は、まわりの白い果肉ごと数日かけて発酵させます。オーストラリアの研究チームが、発酵の中で酵母だけが育たないようにして豆を発酵させると、その豆のチョコは酸っぱく、チョコらしい風味が足りませんでした。原料の豆を選び、産地と発酵の条件を話し合う開発者に向けて、発酵で何が決まるかを整理します。
結論
- ニューサウスウェールズ大学の Ho らが、カビや酵母を抑える薬(ナタマイシン)を加えて酵母を育たなくすると、豆は紫がかったまま茶色にならず、チョコは酸味が強く、チョコらしい風味が足りなかった。
- 同じチームが乳酸菌を抑えた発酵や、酵母に乳酸菌・酢酸菌を足した発酵では、チョコの味見で差は出なかった。発酵で欠かせないのは酵母、というのが研究チームの結論だ。
- 発酵は香りそのものより、焙煎で香りになる材料(前駆体)を作る工程とされる。何日がちょうどよいかは豆や農園によって違い、決まっていない。
01 どんな研究か発酵の中で、酵母がいないとチョコはどうなる?
ニューサウスウェールズ大学の Ho・Zhao・Fleet は、カカオ豆の発酵にナタマイシンを200ppm加えて酵母だけを育たなくし、ふつうの発酵の豆と、豆の色・成分・チョコの味を比べました。
Ho, Zhao, Fleet / ニューサウスウェールズ大学(2014)[1]
ナタマイシンを加えた発酵では、乳酸菌と酢酸菌は同じように育ったが、酵母は育たなかった。この豆はアルコールや香りの成分(エステルなど)が少なく、焙煎した豆にはピラジン(焙煎の香りの成分)も少なかった。豆は紫がかって茶色になりきらず、チョコは酸っぱく、チョコらしい風味が足りなかった。評価者は、酵母が育った豆のチョコをはっきり好んだ。
対象: 酵母を抑えた発酵と、ふつうの発酵の比較 / 限界: 要旨で照合。豆の産地や発酵の量、評価者の人数は確かめられていない。薬で酵母を止めた実験で、農園の発酵そのものとは違う。
ふつうの発酵で多かった微生物は、酵母3種類、乳酸菌2種類、酢酸菌2種類でした。チームはそのあと、乳酸菌だけを抑える実験もしています[2]。乳酸菌が育たなくても、豆は十分に発酵し、チョコの味見の順位に差は出ませんでした。さらに、雑菌のない条件で、酵母4種類だけ、酵母+乳酸菌、酵母+酢酸菌、全部入りの4通りで発酵させても、チョコの味見で差は出ませんでした[3]。研究チームは、乳酸菌と酢酸菌の生育は欠かせないものではないかもしれない、とまとめています。
02 わかった数字発酵の中で、豆に何が起きている?
発酵の熱と、微生物が作るアルコールや酸で豆の芽が死に、豆の中のたんぱく質と糖が分解されます。それが焙煎で香りの成分に変わる、と総説では説明されています。
ブラジルのラヴラス連邦大学の Schwan らの総説によると、発酵では、酵母・乳酸菌・酢酸菌など多くの微生物が次々に入れかわります[4]。そのあいだに最高50℃まで上がる熱と、エタノール・乳酸・酢酸によって豆が死に、香りの前駆体ができます。発酵しすぎると、バチルス属の細菌やカビが増え、くさみ(オフフレーバー)の原因になります。5種類の微生物を混ぜて加えるだけで自然の発酵をまね、質のよいチョコができたことも紹介されています。
ベルギーの De Vuyst と Weckx の総説では、ていねいに行うおよそ4日の自然発酵で、豆は茶色によく発酵した状態になるとされます[5]。発酵は農園で行うため、やり方の違いで豆の質がばらつくことも指摘されています。
Kongor らの総説は、発酵と乾燥の中身をこう説明します[6]。豆の中の酵素が、たんぱく質をアミノ酸と短いペプチドに、糖をブドウ糖と果糖に分解します。これらが焙煎のときに反応して、チョコらしい香りの成分になります。ポリフェノールも発酵と乾燥で酸化され、渋みと苦みが弱まります。焙煎で何が起きるかは焙煎の温度と時間でチョコの香りは変わる?で扱います。
03 開発への使い方発酵の違いを、原料の選び方と評価にどう入れる?
原料の豆を受け入れるときに発酵の度合いを確かめ、発酵の違う豆を同じ焙煎・同じ配合でチョコにして比べることです。研究では、酵母なしで発酵させた豆は紫がかり、そのチョコは酸っぱくなりました。
原料・工程: 発酵だけが違う豆を、ほかの条件をそろえて比べる
産地から発酵の日数ややり方の記録をもらい、発酵の違う豆を同じ温度と時間で焙煎し、同じ配合と練りでチョコにします。焙煎を変えると、発酵の違いか焙煎の違いか分からなくなります。発酵しすぎるとバチルス属の細菌やカビが増え、くさみの原因になるとされるので[4]、長いほどよいとも考えません。
目安 発酵の違う豆2種類以上。焙煎・配合・練りは固定
評価: 断面の色を見て、酸っぱさと風味を官能で付ける
豆を縦に切り、断面が茶色か紫がかっているかを数えます。研究では、よく発酵した豆は茶色、酵母なしの豆は紫がかっていました[1]。チョコにしたら、訓練したパネルで「酸っぱさ」「チョコらしい風味」「くさみ」の強さを付け、どちらを好むかは別に消費者パネルで聞きます。機械の測定なら、焙煎後のピラジンが手がかりになります(酵母なしの豆では少なかった[1])。
目安 断面は1ロット数十粒、同じ明るさで記録
品質管理: ロットごとの発酵のばらつきを受け入れで見る
発酵は農園で行うため、やり方の違いで豆の質がばらつくことが指摘されています[5]。受け入れのたびに断面の色と酸っぱさを基準のロットと比べ、外れたロットは焙煎の前に分けて扱いを決めます。
目安 豆のロットごと
Hoらの実験は研究室の発酵で薬を使って酵母を止めたもので、豆の産地・量・評価者の人数は確かめられていません。農園の発酵や自社の原料とは条件が違うため、試作で確かめる価値がある方向として使います。産地や品種と、発酵のどちらが味に効くかは産地や品種でチョコの味は変わる?で、香りの成分そのものはチョコの香りは何でできている?で読めます。
04 まだわからないことカカオの発酵で、何がまだわかっていない?
酵母が欠かせないことは複数の研究で示されていますが、何日の発酵がちょうどよいか、どの酵母がどの香りを作るかは、豆や農園によって違い、まだ決まっていません。
- Ho らの3本はいずれも要旨で照合しました。豆の産地、発酵させた量、味見の人数は確かめられていません。
- 乳酸菌と酢酸菌がいなくても味見で差が出なかったのは、研究室の小さな発酵での結果です。農園の大きな発酵で同じになるかはわかりません。
- 発酵の日数は、総説によって約4日、7日と説明が違います。豆の種類や発酵の方法で変わると考えられます。
- 微生物を混ぜて加える発酵が、農園の大きさで豆の質をどこまでそろえられるかは、今回読んだ研究では確かめられていません。
05よくある質問
カカオ豆はなぜ発酵させる?
発酵の熱と、微生物が作るアルコールや酸で豆が死に、豆の中のたんぱく質や糖が分解されて、焙煎でチョコの香りになる材料(前駆体)ができるためと説明されています。発酵中は最高50℃まで上がります。
発酵させないカカオ豆でチョコを作るとどうなる?
酵母を薬で止めて発酵させた研究では、豆は紫がかって茶色になりきらず、そのチョコは酸っぱく、チョコらしい風味が足りませんでした。評価者は、酵母が育った豆のチョコをはっきり好みました。
カカオの発酵で一番大事な微生物は?
ニューサウスウェールズ大学のチームの実験では、酵母がいないとチョコらしい風味になりませんでした。一方、乳酸菌や酢酸菌を抑えたり足したりしても、チョコの味見で差は出ませんでした。研究チームは、欠かせないのは酵母だと結論しています。
カカオ豆は何日発酵させる?
総説では、ていねいに行う自然発酵はおよそ4日、別の総説では7日の発酵として説明されています。発酵しすぎると細菌やカビが増え、くさみの原因になります。ちょうどよい日数は豆や方法で違い、決まった答えはありません。
出典
- Ho VT, Zhao J, Fleet G (2014). Yeasts are essential for cocoa bean fermentation. International Journal of Food Microbiology, 174, 72–87. https://doi.org/10.1016/j.ijfoodmicro.2013.12.014
- Ho VT, Zhao J, Fleet G (2015). The effect of lactic acid bacteria on cocoa bean fermentation. International Journal of Food Microbiology, 205, 54–67. https://doi.org/10.1016/j.ijfoodmicro.2015.03.031
- Ho VTT, Fleet GH, Zhao J (2018). Unravelling the contribution of lactic acid bacteria and acetic acid bacteria to cocoa fermentation using inoculated organisms. International Journal of Food Microbiology, 279, 43–56. https://doi.org/10.1016/j.ijfoodmicro.2018.04.040
- Schwan RF, Wheals AE (2004). The microbiology of cocoa fermentation and its role in chocolate quality. Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 44(4), 205–221. https://doi.org/10.1080/10408690490464104
- De Vuyst L, Weckx S (2016). The cocoa bean fermentation process: from ecosystem analysis to starter culture development. Journal of Applied Microbiology, 121(1), 5–17. https://doi.org/10.1111/jam.13045
- Kongor JE, Hinneh M, Van de Walle D, Afoakwa EO, Boeckx P, Dewettinck K (2016). Factors influencing quality variation in cocoa (Theobroma cacao) bean flavour profile — A review. Food Research International, 82, 44–52. https://doi.org/10.1016/j.foodres.2016.01.012


