焙煎の温度と時間でチョコの香りは変わる?マレーシア産の豆では、試食の評価は150℃30分がよかった

焙煎は、カカオ豆を乾いた熱で煎る工程です。温度と時間を変えると、チョコの香りは変わるのでしょうか。マレーシア産の豆を24通りの条件で焙煎した研究では、香りの成分が最もそろったのは160℃30分、チョコにして食べた評価が最もよかったのは150℃30分でした。機械の測定と人の舌とで「いちばん」がずれた、というのが、焙煎の条件を決める開発者にとっての要点です。
結論
- Ramliら(2006)は、マレーシア産のカカオ豆を120〜170℃・20〜50分の組み合わせで焙煎し、香りの成分とダークチョコにしたときの味を比べた。成分の量では160℃30分、試食では150℃30分が最もよかった。
- ドイツの研究所の分析では、焙煎の前後で香りの成分の顔ぶれはほぼ同じだった。焙煎で大きく増えたのは、麦芽・はちみつ・カラメルのような香りの成分だった。
- 研究で試された豆は少なく、どれも研究室の焙煎機での結果である。「何℃が正解か」は、自社の豆と焙煎機ごとに試作で確かめるしかない。
01 どんな研究かカカオ豆を何通りの温度と時間で焙煎した?
Ramliら(2006)は、市販のマレーシア産カカオ豆を120〜170℃の6段階、20〜50分の4段階で焙煎しました。そして香りの成分の分析と、ダークチョコにしたときの試食の評価を比べました。
Ramli N ほか / マレーシアの研究チーム(2006)[1]
焙煎の条件によって、香りの成分ははっきり違った。主な成分19種類のうち9種類がピラジン(焙煎で生まれる香ばしい香りの成分)だった。成分の量から見た最適は160℃30分。一方、チョコにして食べた評価で最もよかったのは150℃30分だった。
対象: マレーシア産の市販カカオ豆1種類。熱風の乾燥オーブンで焙煎し、ダークチョコにして基準のチョコと比べて9段階で採点 / 限界: 豆は1種類だけ。今回は要旨で照合し、採点した人数とチョコの配合は確かめられていない。
試食で見た項目は5つです。渋み・苦み・酸味・ココアらしさ・焦げ。150℃30分のチョコは、渋みと苦みが最も低く、酸味と焦げも低いという結果でした[1]。著者らは、150℃でココアらしい香りが最もよくなったとまとめています。
成分の分析では、トリメチルピラジン・テトラメチルピラジンと、5-メチル-2-フェニル-2-ヘキセナールの3つが、焙煎の進み具合を見る目印になるとされました[1]。香りの成分と試食の評価の間には、統計的に意味のある相関も見られました。
つまり、香りの成分が最も多い条件と、食べておいしい条件は同じではありませんでした。焙煎は「香りを増やす」だけでなく、焦げや苦みも同時に増やします。どこで止めるかは、つり合いで決まると考えられます。
02 わかった数字焙煎すると、どの香りが増えて何が減る?
焙煎で大きく増えるのは、麦芽・はちみつ・カラメルのような香りの成分です。焙煎は渋みも下げましたが、下がり方は豆の発酵のやり方で違いました。
増える香り ドイツ食品化学研究所のFrauendorferとSchieberleは、発酵したクリオロ種の豆を、焙煎の前と後で比べました[2]。香りの成分は42種類見つかり、顔ぶれは焙煎の前後で同じでした。違ったのは強さです。焙煎前の豆で強かったのは、すえたような2-・3-メチルブタン酸と、酸っぱい酢酸。焙煎後は、麦芽のような3-メチルブタナールや、カラメルのような4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンが上位に来ました。30の成分の濃さを測ると、においを感じる濃さを超えた成分は、焙煎前の22から焙煎後の27に増えました。
とくに大きく増えたのは、3-メチルブタナール、はちみつのようなフェニルアセトアルデヒド、カラメルのような成分の3つでした[2]。一方、果物のような2-メチル酪酸エチルや2-フェニルエタノールは、焙煎前の豆にすでにあり、焙煎では増えませんでした。焙煎の前からある香りは、豆と発酵で決まる部分が大きいと考えられます。発酵の話は発酵しないとチョコの香りは出ない?で整理しています。
減る渋み コペンハーゲン大学のOwusuらは、ガーナ産の豆を山積みと箱の2通りで発酵させ、焙煎の有無と条件を変えてチョコを作りました[3]。訓練された8人が味を採点しています。山積みで発酵した豆では、渋みが焙煎なしの10.9から、120℃45分で7.9、150℃30分で5.6まで下がりました。箱で発酵した豆では11.2から9.5、9.8と、はっきりした差になりませんでした。
ただしこの研究は、焙煎の条件とコンチング(練る工程)の時間が同時に違います。焙煎だけの効果とは言い切れません。共著者の1人は菓子メーカーの社員で、デンマークの国際開発機関とその菓子メーカーが資金を出しています。
イランの研究チームは、ココアパウダーで焙煎の温度と時間を比べました[4]。140℃40分で焙煎したものが、焼き色の指標、テトラメチルピラジンとトリメチルピラジンの比、官能評価の点数のすべてで最も高く、ポリフェノールは最も少なくなりました。これはチョコではなくココアパウダーの結果です。
03 開発への使い方焙煎の条件は、試作でどう決める?
温度か時間のどちらか1つだけを動かした試作を並べ、香りの成分の測定と、訓練したパネルの官能評価を両方とることです。研究では、成分から見た最適(160℃30分)と、食べた評価の最適(150℃30分)がずれました。
配合・工程: 温度を決めて、時間だけを動かす
Ramliらは120〜170℃の6段階と20〜50分の4段階を組み合わせました[1]。試作では、たとえば150℃と160℃のどちらかに温度を決め、時間を3段階にします。Owusuらの研究では、同じガーナ産の豆でも発酵のやり方で渋みの下がり方が違ったので[3]、豆のロットと発酵のやり方は固定し、焙煎とコンチングを同時に変えないようにします。
目安 1条件2〜3段階。豆・配合・練りは固定
評価: ピラジンの測定と、5項目の官能評価を並べる
機械の測定では、Ramliらが焙煎の進み具合の目印としたトリメチルピラジン・テトラメチルピラジン・5-メチル-2-フェニル-2-ヘキセナールを測ります[1]。麦芽やカラメルのような成分の増え方も手がかりになります[2]。官能評価は、渋み・苦み・酸味・ココアらしさ・焦げの5項目を、基準のチョコと比べて9段階で付けます[1]。Owusuらは訓練した8人で採点しました[3]。
目安 試料は番号で伏せ、出す順番を入れ替える
品質管理: 豆が変わったら条件を見直す
焙煎の前からある果物のような香りは、焙煎では増えませんでした[2]。豆の産地や発酵が変わると、最適な焙煎も変わると考えられます。新しい豆のロットでは、基準のチョコと比べる官能評価をやり直し、焙煎機の表示温度と豆の温度のずれも記録しておきます。
目安 豆のロットが変わるごと
研究の条件は、マレーシア産1種類の豆を熱風の乾燥オーブンで焙煎したもの、ガーナ産の豆を8人のパネルで評価したもので、自社の豆・焙煎機・配合とは違うため、試作で確かめる価値がある出発点として使います。焙煎した豆を練る工程はコンチングは何をしている?、チョコの香りの主役になる成分はチョコの香りは何でできている?で読めます。
04 まだわからないこと焙煎の「正解の温度」は、どこまでわかっている?
決まった正解はまだ示されていません。150℃30分や160℃30分は、マレーシア産の1種類の豆を熱風オーブンで焙煎した結果です。
- ほかの産地・品種の豆で、同じ条件がよいかは確かめられていません。産地と品種の話は産地や品種でチョコの味は変わる?へ。
- Ramliらの試食の人数やチョコの配合は、今回は原典の本文で確かめられていません(要旨で照合)。
- Ramliらの焙煎は熱風の乾燥オーブンです。熱の伝わり方が違う焙煎機で同じ条件がよいかは、この研究では調べられていません。
- Owusuらの比較は、焙煎とコンチングの条件が同時に違い、焙煎だけの効果を分けられていません。
- 豆の大きさや水分で、中まで熱が通る速さは変わるはずですが、その影響を少量の焙煎で調べた研究は見つかりませんでした。
05よくある質問
カカオ豆の焙煎は何℃・何分がいい?
マレーシア産の豆1種類の研究では、ダークチョコにして食べた評価は150℃30分が最もよく、香りの成分の量では160℃30分が最適でした。豆や焙煎機が違えば変わると考えられ、決まった正解の温度はまだ示されていません。
焙煎するとチョコの香りの何が変わる?
ドイツの研究所の分析では、焙煎の前後で香りの成分の顔ぶれはほぼ同じで、麦芽・はちみつ・カラメルのような香りの成分が大きく増えました。果物のような香りの成分は焙煎前から豆にあり、焙煎では増えませんでした。
焙煎するとチョコの渋みは減る?
ガーナ産の豆の研究では、山積みで発酵した豆は焙煎で渋みが10.9から5.6まで下がりましたが、箱で発酵した豆でははっきりした差になりませんでした。この比較はコンチングの条件も違うため、焙煎だけの効果とは言い切れません。
出典
- Ramli N, Osman H, Said M, Samsudin W, Idris NA 2006. Influence of roasting conditions on volatile flavor of roasted Malaysian cocoa beans. Journal of Food Processing and Preservation, 30, 280–298.
- Frauendorfer F, Schieberle P 2008. Changes in key aroma compounds of Criollo cocoa beans during roasting. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 56(21), 10244–10251.
- Owusu M, Petersen MA, Heimdal H 2013. Relationship of sensory and instrumental aroma measurements of dark chocolate as influenced by fermentation method, roasting and conching conditions. Journal of Food Science and Technology, 50, 909–917.
- Asefi N, Ebrahimzadegan S, Maleki R, Seiiedlou-Heris SS 2023. Effects of roasting on alkylpyrazin compounds and properties of cocoa powder. Journal of Food Science and Technology, 60, 572–580.


