焙煎と練り

焙煎の温度と時間でチョコの香りは変わる?マレーシア産の豆では、試食の評価は150℃30分がよかった

約7分で読めます / 主役の研究: Ramli ら 2006

研究の確かさ ★★☆ 中論文4本を照合
焙煎したカカオ豆
Photo: Mauro Cateb / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された論文をAIが開いて読み、数字を照合して整理しました(商品の紹介はしていません。出典は末尾)。

焙煎は、カカオ豆を乾いた熱で煎る工程です。温度と時間を変えると、チョコの香りは変わるのでしょうか。マレーシア産の豆を24通りの条件で焙煎した研究では、香りの成分が最もそろったのは160℃30分、チョコにして食べた評価が最もよかったのは150℃30分でした。機械の測定と人の舌とで「いちばん」がずれた、というのが、焙煎の条件を決める開発者にとっての要点です。

結論

  1. Ramliら(2006)は、マレーシア産のカカオ豆を120〜170℃・20〜50分の組み合わせで焙煎し、香りの成分とダークチョコにしたときの味を比べた。成分の量では160℃30分、試食では150℃30分が最もよかった。
  2. ドイツの研究所の分析では、焙煎の前後で香りの成分の顔ぶれはほぼ同じだった。焙煎で大きく増えたのは、麦芽・はちみつ・カラメルのような香りの成分だった。
  3. 研究で試された豆は少なく、どれも研究室の焙煎機での結果である。「何℃が正解か」は、自社の豆と焙煎機ごとに試作で確かめるしかない。

01 どんな研究かカカオ豆を何通りの温度と時間で焙煎した?

Ramliら(2006)は、市販のマレーシア産カカオ豆を120〜170℃の6段階、20〜50分の4段階で焙煎しました。そして香りの成分の分析と、ダークチョコにしたときの試食の評価を比べました。

Ramli N ほか / マレーシアの研究チーム(2006)[1]

焙煎の条件によって、香りの成分ははっきり違った。主な成分19種類のうち9種類がピラジン(焙煎で生まれる香ばしい香りの成分)だった。成分の量から見た最適は160℃30分。一方、チョコにして食べた評価で最もよかったのは150℃30分だった。

対象: マレーシア産の市販カカオ豆1種類。熱風の乾燥オーブンで焙煎し、ダークチョコにして基準のチョコと比べて9段階で採点 / 限界: 豆は1種類だけ。今回は要旨で照合し、採点した人数とチョコの配合は確かめられていない。

試食で見た項目は5つです。渋み・苦み・酸味・ココアらしさ・焦げ。150℃30分のチョコは、渋みと苦みが最も低く、酸味と焦げも低いという結果でした[1]。著者らは、150℃でココアらしい香りが最もよくなったとまとめています。

成分の分析では、トリメチルピラジン・テトラメチルピラジンと、5-メチル-2-フェニル-2-ヘキセナールの3つが、焙煎の進み具合を見る目印になるとされました[1]。香りの成分と試食の評価の間には、統計的に意味のある相関も見られました。

つまり、香りの成分が最も多い条件と、食べておいしい条件は同じではありませんでした。焙煎は「香りを増やす」だけでなく、焦げや苦みも同時に増やします。どこで止めるかは、つり合いで決まると考えられます。

02 わかった数字焙煎すると、どの香りが増えて何が減る?

焙煎で大きく増えるのは、麦芽・はちみつ・カラメルのような香りの成分です。焙煎は渋みも下げましたが、下がり方は豆の発酵のやり方で違いました。

24通りRamliらが試した焙煎の条件。120〜170℃の6段階×20〜50分の4段階(マレーシア産の豆)
150℃・30分同じ研究で、ダークチョコの渋みと苦みが最も低かった条件
22→27成分クリオロ種の豆で、においを感じる濃さを超えた香りの成分の数。焙煎前→焙煎後(Frauendorfer・Schieberle 2008)
10.9→5.6山積みで発酵したガーナ産の豆のチョコの渋み。焙煎なし→150℃30分(15cmの線の上で採点。Owusuら 2013)

増える香り ドイツ食品化学研究所のFrauendorferとSchieberleは、発酵したクリオロ種の豆を、焙煎の前と後で比べました[2]。香りの成分は42種類見つかり、顔ぶれは焙煎の前後で同じでした。違ったのは強さです。焙煎前の豆で強かったのは、すえたような2-・3-メチルブタン酸と、酸っぱい酢酸。焙煎後は、麦芽のような3-メチルブタナールや、カラメルのような4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンが上位に来ました。30の成分の濃さを測ると、においを感じる濃さを超えた成分は、焙煎前の22から焙煎後の27に増えました。

とくに大きく増えたのは、3-メチルブタナール、はちみつのようなフェニルアセトアルデヒド、カラメルのような成分の3つでした[2]。一方、果物のような2-メチル酪酸エチルや2-フェニルエタノールは、焙煎前の豆にすでにあり、焙煎では増えませんでした。焙煎の前からある香りは、豆と発酵で決まる部分が大きいと考えられます。発酵の話は発酵しないとチョコの香りは出ない?で整理しています。

減る渋み コペンハーゲン大学のOwusuらは、ガーナ産の豆を山積みと箱の2通りで発酵させ、焙煎の有無と条件を変えてチョコを作りました[3]。訓練された8人が味を採点しています。山積みで発酵した豆では、渋みが焙煎なしの10.9から、120℃45分で7.9、150℃30分で5.6まで下がりました。箱で発酵した豆では11.2から9.5、9.8と、はっきりした差になりませんでした。

ただしこの研究は、焙煎の条件とコンチング(練る工程)の時間が同時に違います。焙煎だけの効果とは言い切れません。共著者の1人は菓子メーカーの社員で、デンマークの国際開発機関とその菓子メーカーが資金を出しています。

イランの研究チームは、ココアパウダーで焙煎の温度と時間を比べました[4]。140℃40分で焙煎したものが、焼き色の指標、テトラメチルピラジンとトリメチルピラジンの比、官能評価の点数のすべてで最も高く、ポリフェノールは最も少なくなりました。これはチョコではなくココアパウダーの結果です。

03 開発への使い方焙煎の条件は、試作でどう決める?

温度か時間のどちらか1つだけを動かした試作を並べ、香りの成分の測定と、訓練したパネルの官能評価を両方とることです。研究では、成分から見た最適(160℃30分)と、食べた評価の最適(150℃30分)がずれました。

1

配合・工程: 温度を決めて、時間だけを動かす

Ramliらは120〜170℃の6段階と20〜50分の4段階を組み合わせました[1]。試作では、たとえば150℃と160℃のどちらかに温度を決め、時間を3段階にします。Owusuらの研究では、同じガーナ産の豆でも発酵のやり方で渋みの下がり方が違ったので[3]、豆のロットと発酵のやり方は固定し、焙煎とコンチングを同時に変えないようにします。

目安 1条件2〜3段階。豆・配合・練りは固定

2

評価: ピラジンの測定と、5項目の官能評価を並べる

機械の測定では、Ramliらが焙煎の進み具合の目印としたトリメチルピラジン・テトラメチルピラジン・5-メチル-2-フェニル-2-ヘキセナールを測ります[1]。麦芽やカラメルのような成分の増え方も手がかりになります[2]。官能評価は、渋み・苦み・酸味・ココアらしさ・焦げの5項目を、基準のチョコと比べて9段階で付けます[1]。Owusuらは訓練した8人で採点しました[3]。

目安 試料は番号で伏せ、出す順番を入れ替える

3

品質管理: 豆が変わったら条件を見直す

焙煎の前からある果物のような香りは、焙煎では増えませんでした[2]。豆の産地や発酵が変わると、最適な焙煎も変わると考えられます。新しい豆のロットでは、基準のチョコと比べる官能評価をやり直し、焙煎機の表示温度と豆の温度のずれも記録しておきます。

目安 豆のロットが変わるごと

研究の条件は、マレーシア産1種類の豆を熱風の乾燥オーブンで焙煎したもの、ガーナ産の豆を8人のパネルで評価したもので、自社の豆・焙煎機・配合とは違うため、試作で確かめる価値がある出発点として使います。焙煎した豆を練る工程はコンチングは何をしている?、チョコの香りの主役になる成分はチョコの香りは何でできている?で読めます。

04 まだわからないこと焙煎の「正解の温度」は、どこまでわかっている?

決まった正解はまだ示されていません。150℃30分や160℃30分は、マレーシア産の1種類の豆を熱風オーブンで焙煎した結果です。

  • ほかの産地・品種の豆で、同じ条件がよいかは確かめられていません。産地と品種の話は産地や品種でチョコの味は変わる?へ。
  • Ramliらの試食の人数やチョコの配合は、今回は原典の本文で確かめられていません(要旨で照合)。
  • Ramliらの焙煎は熱風の乾燥オーブンです。熱の伝わり方が違う焙煎機で同じ条件がよいかは、この研究では調べられていません。
  • Owusuらの比較は、焙煎とコンチングの条件が同時に違い、焙煎だけの効果を分けられていません。
  • 豆の大きさや水分で、中まで熱が通る速さは変わるはずですが、その影響を少量の焙煎で調べた研究は見つかりませんでした。

テンパリング温度ガイド研究一覧を見る

05よくある質問

カカオ豆の焙煎は何℃・何分がいい?

マレーシア産の豆1種類の研究では、ダークチョコにして食べた評価は150℃30分が最もよく、香りの成分の量では160℃30分が最適でした。豆や焙煎機が違えば変わると考えられ、決まった正解の温度はまだ示されていません。

焙煎するとチョコの香りの何が変わる?

ドイツの研究所の分析では、焙煎の前後で香りの成分の顔ぶれはほぼ同じで、麦芽・はちみつ・カラメルのような香りの成分が大きく増えました。果物のような香りの成分は焙煎前から豆にあり、焙煎では増えませんでした。

焙煎するとチョコの渋みは減る?

ガーナ産の豆の研究では、山積みで発酵した豆は焙煎で渋みが10.9から5.6まで下がりましたが、箱で発酵した豆でははっきりした差になりませんでした。この比較はコンチングの条件も違うため、焙煎だけの効果とは言い切れません。