チョコの香りは何でできている?ココアパウダーの分析では、24の成分を混ぜると香りが再現された

チョコの香りには、「チョコの香りの成分」が1つあるわけではありません。ドイツの研究所はココアパウダーから香りの成分を35種類見つけ、そのうち24種類を元と同じ濃さで混ぜ直すと、ココアらしい甘い香りが再現されました。主役は、1つずつかぐとチョコらしくないにおいの組み合わせです。酸っぱい・汗のような・麦芽のようなにおいまで入っています。
結論
- FrauendorferとSchieberle(2006)は、ココアパウダーから35の香りの成分を見つけ、31の濃さを測った。においを感じる濃さの100倍を超えたのは、酢酸・3-メチルブタナール・3-メチルブタン酸・フェニルアセトアルデヒド・2-メチルブタナールの5つだった。
- においを感じる濃さを超えた24の成分を、においを抜いたココアに同じ濃さで加えると、元のココアパウダーらしい甘い香りになった。
- この研究はココアパウダーの1試料で、砂糖や乳の入った板チョコで同じ成分が主役かは確かめられていない。
01 どんな研究か研究所はどうやって香りの主役を探した?
ドイツ食品化学研究所のFrauendorferとSchieberle(2006)は、ココアパウダーの香りを抜き出し、薄めながら人がかいで強い成分を探しました。次に濃さを測り、最後に混ぜ直して元の香りになるかを確かめました。
Frauendorfer F, Schieberle P / ドイツ食品化学研究所(ガルヒング)(2006)[1]
脂肪分20%のココアパウダー50gから香りの成分を丁寧に抜き出し、薄めても香る成分を順に探した。35の成分が、8倍から4096倍に薄めた範囲で香った。31の成分の濃さを正確に測り、香りの強さの目安を計算した。最後に、目安が1を超えた24成分を同じ濃さで混ぜると、元のココアパウダーらしい甘い香りになった。
対象: ココアパウダー1種類(脂肪分20%) / 限界: 板チョコではなくココアパウダー。豆の産地や発酵・焙煎が違えば、成分の濃さも変わると考えられる。
香りの強さの目安は、成分の濃さを「人がにおいとして感じる最低の濃さ」で割った数です[1]。1を超えれば、その成分は香りとして効いている可能性があります。100を超えたのは、酸っぱい酢酸、麦芽のような3-メチルブタナールと2-メチルブタナール、すえた・汗のような3-メチルブタン酸、はちみつのようなフェニルアセトアルデヒドの5つでした。ほかに19の成分が1を超えました。
薄めても最後まで香った成分も挙げられています[1]。カラメルのような4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、汗のような2-・3-メチルブタン酸、煮たキャベツのようなジメチルトリスルフィド、ポテトチップスのような2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、はちみつのようなフェニルアセトアルデヒドです。
混ぜ直しの土台は、においを抜いたココアパウダーに、においを抜いたカカオバターを足して脂肪分を20%にそろえたものでした[1]。ここに24の成分を元と同じ濃さで加え、本物と比べています。1つずつかぐと酸っぱい・汗のようなにおいも、組み合わさるとココアの香りの一部になる、ということです。
02 わかった数字香りの主役は、いくつの成分でできている?
ココアパウダーでは、35の香りの成分のうち24が効いていて、とくに強いのは5つでした。焙煎すると、そのうち麦芽やはちみつのような成分が大きく増えます。
| 強さの目安が100を超えた成分 | においの言い表し | 焙煎での変化(クリオロ種の豆) |
|---|---|---|
| 酢酸 | 酸っぱい | 焙煎前の豆で最も強い部類 |
| 3-メチルブタナール | 麦芽のよう | 焙煎で大きく増えた |
| 2-メチルブタナール | 麦芽のよう | 要旨には記載なし |
| 3-メチルブタン酸 | 汗のよう・すえたよう | 焙煎前からあり、焙煎では増えなかった |
| フェニルアセトアルデヒド | はちみつのよう | 焙煎で大きく増えた |
左2列はココアパウダーの研究 [1]、右の列はクリオロ種の豆の焙煎の研究 [2]。焙煎の研究ではカラメルのような4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンも大きく増えた。
同じチームは、2008年にクリオロ種、2019年にフォラステロ種の発酵した豆で、焙煎の前後を比べています[2][3]。どちらの豆でも、香りの成分の顔ぶれは焙煎の前後でほぼ同じでした。焙煎で大きく増えたのは、3-メチルブタナール、フェニルアセトアルデヒド、カラメルのような成分です。フォラステロ種では、においを感じる濃さを超えた成分が、焙煎前の20から焙煎後の24になりました。
香りの成分と、人が感じる風味をつないだ研究もあります。コペンハーゲン大学のOwusuらは、ガーナ産の豆のダークチョコで、訓練された8人の採点と香りの成分を比べました[4]。果物のような風味の点数は、果物や花のような3-メチル酪酸エチル、ポップコーンのような2,5-ジメチルピラジンなど6つの成分の量から、相関0.83で説明できました。
03 開発への使い方香りの違いを、試作と品質管理でどう測る?
機械の分析で主役の成分の濃さを追い、人の評価では口から鼻へ抜ける香りを決めた言葉で採点する、の2つを組み合わせます。分析の差がそのまま人の感じ方の差になるとは限らないので、両方を同じ試料で取ります。
配合・工程: 狙う香りの成分を決めて、工程を1つだけ変える
焙煎では、麦芽のような3-メチルブタナール、はちみつのようなフェニルアセトアルデヒド、カラメルのような成分が大きく増え、汗のような3-メチルブタン酸は増えませんでした[2][3]。狙う香りに合わせて、焙煎・発酵・練りのうち1つの条件だけを変えた試作を並べます。条件ごとの研究は焙煎の温度と時間でチョコの香りは変わる?、発酵しないとチョコの香りは出ない?、コンチングは何をしている?にあります。
目安 1条件2〜3段階。豆のロットは固定
評価: 成分の分析と、言葉をそろえた官能評価を同じ試料で
分析では、成分の濃さを「人がにおいとして感じる最低の濃さ」で割った強さの目安を出し、1を超える成分を追います[1]。人の評価は、Owusu らのように訓練した評価者(研究では8人)が、「麦芽」「はちみつ」「カラメル」「酸っぱい」「ポテトチップス」など決めた言葉ごとに点を付けます[4]。鼻をつまんだ1口と離した1口を比べると、口から鼻へ抜ける香りの分を分けて見られます[5]。評価の人数はチョコの官能評価は何人に頼めばいい?にまとめています。
目安 試作ごとに分析1回と、評価者全員の採点
品質管理: 原料のロットと保存で、香りがぶれないかを見る
主役の成分の顔ぶれは豆の品種で少し違い、焙煎後に感じる濃さを超えた成分はクリオロ種で27、フォラステロ種で24でした[2][3]。原料のロットが変わったら、決めた成分の強さの目安と官能評価を基準品と比べます。保存中に香りの成分が減ることもあるので、包装と保存の条件も確かめます(チョコは冷蔵庫に入れていい?)。包みや説明の香りの言葉は、評価で実際に出た言葉に合わせます。
目安 原料のロットごとに基準品と比較
混ぜ直しで香りが再現されたのは脂肪分20%のココアパウダー1試料[1]、焙煎の研究はクリオロ種とフォラステロ種の豆[2][3]、風味と成分の対応はガーナ産の豆のダークチョコ[4]です。砂糖や乳の入った自社の製品で同じ成分が主役かは、自社の分析と評価で確かめます。社内の試食記録には食べ比べノートも使えます。
04 まだわからないこと板チョコの香りの主役も同じと言える?
言い切れません。混ぜ直しで香りが再現されたのはココアパウダーで、砂糖や乳の入った板チョコで同じことを確かめた研究は、今回は読めていません。
- 24成分の混ぜ直しは、脂肪分20%のココアパウダー1試料での結果です。
- 総説は、香りの成分がほかの成分とどうくっつくかで、口の中での出方が変わると説明しています。砂糖や乳の入った板チョコでどれだけ変わるかは、今回の研究ではわかりません。
- どれか1つの成分を抜くと香りがどう変わるかは、要旨では確かめられませんでした。
- 産地や品種が違う豆で、主役の顔ぶれがどれだけ変わるかも、今回読んだ研究では比べられていません。
- においを感じる濃さには個人差があり、同じチョコでも人によって目立つ成分が違う可能性があります。
05よくある質問
チョコの香りの主な成分は何?
ココアパウダーの研究では、とくに強く効いていたのは、酸っぱい酢酸、麦芽のような3-メチルブタナールと2-メチルブタナール、汗のような3-メチルブタン酸、はちみつのようなフェニルアセトアルデヒドの5つでした。24の成分を混ぜ直すと、ココアらしい香りが再現されました。
チョコの香りはピラジンで決まる?
ピラジンだけでは決まりません。ココアパウダーの研究では、ポテトチップスのようなピラジンも強く香る成分の1つでしたが、とくに強い5つには入らず、酸・麦芽やはちみつのような成分も含めた24の組み合わせで香りが再現されました。
チョコに酸っぱいにおいや汗のようなにおいの成分も入っている?
入っています。ココアパウダーの研究で強く効いていた成分には、酸っぱい酢酸や汗のような3-メチルブタン酸もありました。1つずつかぐとチョコらしくないにおいも、ほかの成分と組み合わさってココアの香りになると考えられます。
出典
- Frauendorfer F, Schieberle P 2006. Identification of the key aroma compounds in cocoa powder based on molecular sensory correlations. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 54, 5521–5529.
- Frauendorfer F, Schieberle P 2008. Changes in key aroma compounds of Criollo cocoa beans during roasting. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 56(21), 10244–10251.
- Frauendorfer F, Schieberle P 2019. Key aroma compounds in fermented Forastero cocoa beans and changes induced by roasting. European Food Research and Technology, 245, 1907–1915.
- Owusu M, Petersen MA, Heimdal H 2013. Relationship of sensory and instrumental aroma measurements of dark chocolate as influenced by fermentation method, roasting and conching conditions. Journal of Food Science and Technology, 50, 909–917.
- Augusto PPC, Bolini HMA 2022. The role of conching in chocolate flavor development: A review. Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety, 21, 3274–3296.


