カカオの健康効果はどこまで本当?抽出物カプセルの2万人超の試験では、心血管の病気の合計ははっきり減らず

「カカオポリフェノールで健康に」という言葉は、チョコの商品説明でもよく使われます。では、どこまでが研究で確かめられたのでしょうか。2万人を超える人が参加した大規模な試験の答えは、期待より控えめでした。この記事では、商品説明をどこまで書けるかを考える開発者に向けて、言えることと言えないことを分けて読みます。病気の予防や治療についての話ではありません。
結論
- 米国の60歳以上2万1442人の試験COSMOSでは、カカオ抽出物のカプセル(フラバノール1日500mg)を約3.6年飲んでも、心臓や血管の病気の合計ははっきり減らなかった。チョコを食べた試験ではない。
- 短期の試験をまとめると、フラバノールの多いココア製品で上の血圧は平均約1.8mmHg低いという小さな差だった。記憶や考える力については、大規模試験で差は見られなかった。
- EUは「フラバノール1日200mgが正常な血流に役立つ」という表示を認めたが、病気の予防の表示ではない。普通のチョコにどれだけフラバノールが入っているかは、製品ごとに測らないとわからない。
01 どんな研究かカカオの成分で、心臓や血管の病気は減る?
ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(ハーバード大学医学部)のSessoらは、2万1442人をカカオ抽出物と偽のカプセルに分け、約3.6年追いました。心臓や血管の病気の合計は、統計的にはっきりした差になりませんでした。
Sesso HD, Manson JE ほか / ブリガム・アンド・ウィメンズ病院・ハーバード大学医学部ほか(2022)[1]
大きな心臓や血管の病気のない米国の65歳以上の女性1万2666人と60歳以上の男性8776人が、フラバノール1日500mg(エピカテキン80mgを含む)のカプセル2粒か、偽のカプセルを飲んだ。心筋梗塞・脳卒中などを合わせた病気は、抽出物の群で410人、偽の群で456人に起き、ハザード比0.90(95%信頼区間0.78〜1.02)で、差ははっきりしなかった。
対象: 米国の60歳以上の成人2万1442人、二重盲検のランダム化試験 / 限界: チョコでなくカプセルの抽出物。研究は菓子メーカー系の企業の助成と米国国立衛生研究所(NIH)の支援を受け、抽出物もその企業が提供した。
ほかの項目では、心臓や血管の病気による死亡がハザード比0.73(0.54〜0.98)と低めでした[1]。ただし著者らは、複数の項目を調べたことによる補正をしておらず、こうした結果は仮説を作るためのものと位置づけています。カプセルをきちんと飲み続けた人に限った分析では、合計の病気もハザード比0.85(0.72〜0.99)でした。著者らは、さらに研究が必要だとまとめています。
この試験では、参加者がチョコを食べることは制限されていませんでした[1]。つまり、チョコをたくさん食べる人と食べない人を比べた試験ではありません。
02 わかった数字血圧や記憶への影響は、どのくらいの大きさ?
短期の試験のまとめで、上の血圧は平均1.76mmHg低いという小さな差でした。記憶や考える力は、大規模試験で偽のカプセルと差がありませんでした。
血圧 国際的な医療研究のまとめ役であるコクランのレビューで、Riedらは35の試験を集めました[2]。フラバノールの多いココア製品は、少ない製品や偽の製品より、上の血圧も下の血圧も平均1.76mmHg低い結果でした。試験で使われたフラバノールは1日30〜1218mg、ココア製品は1日1.4〜105gと幅があります。著者らは証拠の確かさを「中」とし、結果のばらつきが説明できないと書いています。企業に雇われた著者のいる試験を除くと差は少し小さくなり、報告に偏りがある可能性も示されました。
記憶・考える力 COSMOSの中で、電話で考える力を毎年調べた2262人の研究では、3年間で抽出物の効果は見られませんでした[3]。対面で詳しい検査を受けた573人の研究でも、2年間で全体の点数・記憶・注意のどれも差はありませんでした[4]。
| 言えること | 言えないこと |
|---|---|
| フラバノールの多いココア製品の短期の試験では、血圧に小さな差が出た | 市販のチョコを食べると血圧が下がる |
| EUは、フラバノール1日200mgが正常な血流に役立つという表示を認めた | チョコで心臓病や脳卒中を予防できる |
| 2万人超の試験で、抽出物は心臓・血管の病気の合計をはっきり減らさなかった | カカオで頭が良くなる・物忘れを防げる |
表は、この記事で照合した出典[1]〜[6]の範囲で整理したもの。
EUの表示 欧州食品安全機関(EFSA)は2012年、ベルギーのカカオ原料メーカーの申請を受けて判断しました[5]。「カカオフラバノールは、血管の内側の働きによる血管の広がりを保つのに役立ち、正常な血流につながる」という表示は根拠があるとし、そのためには1日200mgが必要だとしました。量の例は、フラバノールを多く含むように作ったココア2.5gか、同じように作ったダークチョコ10gです。2014年には、同じく申請を受けて、抽出物のカプセルや錠剤でも同じ根拠があると判断しました[6]。どちらも、病気を防ぐという表示ではありません。
03 開発への使い方健康の研究を、配合・測定・表示でどう扱う?
健康をうたう言葉に頼らず、フラバノールの量を自社の製品で測り、上の表の「言えること」の範囲で説明することです。病気の予防や治療をうたう表示はしません。
配合・工程: フラバノールは工程で大きく変わる
EFSAの量の例は、フラバノールを多く含むように作ったダークチョコ10gで、普通のチョコではありません[5]。フラバノールは発酵・アルカリ処理・焙煎で大きく減ります(焙煎や加工でカカオのポリフェノールはどれだけ減る?)。残す工程は苦み・渋みが残る面もあるので、官能評価で味とのつり合いを確かめます。
目安 工程を変えるたびに測定と官能評価
測定: 1食分あたりのフラバノールを、製品で測る
量を説明に使うなら、配合からの計算でなく製品を測った値にします。試験で使われた量(COSMOSは1日500mg[1]、血圧の試験は1日30〜1218mg[2])と比べられるよう、1食分あたりのmgで持っておきます。豆のロットや工程が変わったら測り直します。
目安 ロットごと、または工程の変更ごと
表示: 「言えないこと」の列の言い方を使わない
「血圧が下がる」「心臓病を予防」「頭が良くなる」は、研究の結果からは言えません。EUで認められた表示は、申請にもとづく血流の表示で、1日200mgが条件です[5][6]。日本で健康にかかわる表示をするときのきまりは、この記事では原典を確かめておらず、法的な助言でもありません。表示の担当者と確かめてください。
目安 商品説明・広告の文を作るたびに表と照らす
研究の多くはカプセルの抽出物や特別に作ったココア製品で、普通のチョコとは量も形も違います。COSMOSの研究は菓子メーカー系の企業の助成を受けていたことも、説明に使うときに添えます。カカオ分と苦さの研究はカカオ分が高いほど苦い?、ダークチョコの重金属の話はダークチョコの鉛やカドミウムは心配?で読めます。
04 まだわからないことカカオと健康で、まだ答えが出ていないことは?
普通のチョコを長く食べ続けたときに病気が減るかを確かめたランダム化試験は、今回の調べでは見つかりませんでした。COSMOSで見られた死亡の差が本物かどうかも、まだわかりません。
- COSMOSは60歳以上の米国の人で、カプセルの抽出物を使いました。若い人や日本の人、チョコという食べ物で同じ結果になるかはわかりません。
- 心臓や血管の病気による死亡が低めだった結果は、補正をしていない副次的な項目で、別の試験での確認が必要です。
- 血圧の試験は2〜18週と短く、結果のばらつきの理由が説明できていません。
- 市販のチョコにフラバノールがどれだけ入っているかは、製品ごとに表示されていないことが多く、この記事では確かめられませんでした。
05よくある質問
チョコを食べると心臓病の予防になる?
そうとは言えません。米国の60歳以上2万1442人の大規模試験では、カカオ抽出物のカプセル(フラバノール1日500mg)を約3.6年飲んでも、心臓や血管の病気の合計ははっきり減りませんでした。しかもこの試験はチョコを食べたものではありません。
カカオで血圧は下がる?
フラバノールを多く含むココア製品の短期の試験をまとめたコクランのレビューでは、主に健康な成人で、上の血圧が平均約1.8mmHg低いという小さな差でした。試験ごとの結果のばらつきが大きく、長く食べたときや、市販のチョコの量で同じことが起きるかはわかっていません。
カカオで頭が良くなる?物忘れを防げる?
大規模試験COSMOSの関連研究では、カカオ抽出物のカプセルを2〜3年飲んでも、記憶や考える力の変化は偽のカプセルと差がありませんでした。物忘れや認知症の予防になるとは言えません。
EUで認められたカカオの健康表示とは?
欧州食品安全機関(EFSA)は、カカオフラバノールを1日200mgとると、血管の内側の働きによる血管の広がりを保つことに役立ち、正常な血流につながる、という表示を科学的に裏づけられると判断しました。量の例は、フラバノールを多く含むように作ったココア2.5gか、同じく作ったダークチョコ10gです。病気の予防の表示ではありません。
チョコ製品に「健康によい」と書いてよい?
研究の結果からは、市販のチョコで血圧が下がる、心臓病を予防できる、頭が良くなるとは言えません。EUの表示も、申請にもとづく血流の表示で、病気の予防の表示ではありません。日本で健康にかかわる表示をするときのきまりは、この記事では原典を確かめておらず、法的な助言でもありません。表示の担当者と確かめてください。
出典
- Sesso HD, Manson JE, Aragaki AK, et al. 2022. Effect of cocoa flavanol supplementation for the prevention of cardiovascular disease events: the COcoa Supplement and Multivitamin Outcomes Study (COSMOS) randomized clinical trial. American Journal of Clinical Nutrition, 115(6), 1490–1500.
- Ried K, Fakler P, Stocks NP 2017. Effect of cocoa on blood pressure. Cochrane Database of Systematic Reviews, CD008893.
- Baker LD, Manson JE, Rapp SR, et al. 2023. Effects of cocoa extract and a multivitamin on cognitive function: A randomized clinical trial. Alzheimer's & Dementia, 19(4), 1308–1319.
- Vyas CM, Manson JE, Sesso HD, et al. 2024. Effect of cocoa extract supplementation on cognitive function: results from the clinic subcohort of the COSMOS trial. American Journal of Clinical Nutrition, 119(1), 39–48.
- EFSA NDA Panel 2012. Scientific Opinion on the substantiation of a health claim related to cocoa flavanols and maintenance of normal endothelium-dependent vasodilation pursuant to Article 13(5) of Regulation (EC) No 1924/2006. EFSA Journal, 10(7), 2809.
- EFSA NDA Panel 2014. Scientific Opinion on the modification of the authorisation of a health claim related to cocoa flavanols and maintenance of normal endothelium-dependent vasodilation. EFSA Journal, 12(5), 3654.


