自分たちの試作は甘く評価しがち?イケア効果の実験では、自作の品を熟練者の作品並みに値付けした

何度も配合を直した試作は、作った本人にはいちばんおいしく感じられます。その評価は、買う人の評価と同じでしょうか。自分で作った物を高く見積もる「イケア効果」の実験と、自分で作った食べ物の好き度を調べた実験から、試作の評価を作り手から切り離す組み方を考えます。
結論
- 米国の大学で行われた Norton らの実験では、自分で折った折り紙に平均23セントを付けた。作った人を知らない人は同じ折り紙に5セントしか付けず、作った人の値付けは熟練者の作品の値(27セント)と差がなかった。
- 食べ物では、自分で作ったミルクセーキは人が作った物より好かれ、多く飲まれた(60人)。一方、女性120人の別の実験では、自分で作ると好き度が上がったのは健康的な料理だけで、そうでない料理では上がらなかった。
- チョコの試作で作り手の評価を調べた研究は見つからなかった。開発では、試作を番号で伏せ、作った人以外のパネルで評価し、作り手の点数は分けて記録するのが確かめやすい組み方になる。
01 どんな研究か作った人は、自分の作品をどう値付けした?
ハーバード大学・カリフォルニア大学サンディエゴ校・デューク大学の研究者が、学生に箱の組み立て・折り紙・ブロックを作らせ、作った人と作っていない人が同じ品にいくら払うかを比べました。
Michael I. Norton / ハーバード・ビジネス・スクール、Daniel Mochon / カリフォルニア大学サンディエゴ校、Dan Ariely / デューク大学(2012)[1]
自分で組み立てた・折った品には、作っていない人より高い値が付いた。作った人は素人の作品を熟練者の作品と同じくらいの価値と見て、他の人も同じように評価すると考えていた。作って壊した場合や、完成させなかった場合は、この上乗せが消えた。
対象: 米国の大学の学生など。4つの実験で52人・106人・118人・39人 / 限界: 作ったのは家具の箱・折り紙・ブロックで、食べ物ではない。値付けは0〜1ドル程度の小さな額で、味の評価は測っていない。
値付けには、払うと言った額と乱数を比べて買えるかが決まるやり方(BDM法)を使い、高く言いすぎると損をする仕組みにしています[1]。折り紙の実験では、作っていない人は「誰が作ったか」も「作った人がいくら付けたか」も知らされずに値を付けました。つまり、作り手を伏せた外の評価者と、作り手本人の評価を並べた形です。
食べ物では、Dohle らのミルクセーキの実験があります[2]。60人が高カロリーのミルクセーキを、自分で作るか、実験者が作った物を受け取って飲みました。自分で作った人のほうが好き度が高く、飲んだ量も多く、量の差は好き度の差で説明されました。著者らはこれを「自分で作った」効果と呼んでいます。ノルウェー経済大学の Troye と Supphellen も、3つの実験で、夕食を自分で作った人は料理と使った調理キットを高く評価し、塩気や辛さの感じ方まで、良い評価に合う向きにずれたと報告しています[4]。
02 わかった数字作り手の上乗せは、どれくらい?
折り紙では、作った人の値付けは作り手を知らない人の約4.6倍でした。箱の組み立てでも作った人のほうが高く払うと答えました。ただし食べ物では、上乗せが出ない条件もありました。
好き度(7段階)も、箱を組み立てた人は3.81、組み立て済みを見た人は2.50でした[1]。開発で気をつけたいのは最後の数字です。作った人は「ほかの人も同じくらい評価するはず」と考えていました。作り手の手応えは、買う人の評価の予想としてそのまま使えない可能性があります。
| 研究 | 作った物 | 作った人の評価は上がったか |
|---|---|---|
| Norton ら 2012 [1] | 箱・折り紙・ブロック | 上がった(完成させた場合だけ) |
| Dohle ら 2014 [2] | 高カロリーのミルクセーキ(60人) | 上がった。飲む量も増えた |
| Dohle ら 2016 [3] | 健康的な料理/そうでない料理(女性120人) | 健康的な料理だけ上がった |
| Troye と Supphellen 2012 [4] | 調理キットで作る夕食(3実験) | 上がった。塩気・辛さの感じ方もずれた |
| Raghoebar ら 2017 [5] | 野菜で作る飾り(4〜6歳の86人) | 好き度も食べた量も差がなかった |
[1]と[5]は本文の数字、[2][3][4]は要旨で照合した。どれもチョコではない。
03 開発への使い方作り手の評価を、どう切り離す?
作った人の評価が甘くなる可能性を前提に、採否の基準を先に決め、試作を番号で伏せて作り手以外に評価してもらいます。作り手の点数は捨てずに分けて記録すると、自社でどれだけずれるかを確かめられます。
採用の基準を、試作を作る前に決める
「今の製品と比べて、9段階の好き度で1点以上高ければ配合を採用」のように、変える条件1つと、採用する差を試作の前に書いておきます。作ったあとに基準を決めると、手をかけた試作を通したくなる余地が残ります。何人に聞けば差がわかるかは官能評価の人数の記事にまとめています。
目安 試作ごとに、変えた条件・基準・結果を1行で残す
番号で伏せ、作った人以外のパネルで評価する
試作と比較品を同じ形・同じ温度にそろえ、意味のない番号を付けて出します。配合した人・その試作を推している人は評価者から外すか、別の列に記録します。Norton らの実験で作り手を知らない人が付けた値は、作り手の値付けを大きく下回りました [1]。表示や値段を見せると評価が動く研究もあるので(産地の表示、フェアトレードの表示)、伏せる対象は作り手だけでなく試作の名前や狙いも含めます。
目安 試作3〜6品、出す順番は人ごとに入れ替える
作り手と外の評価の差を、自社の数字として残す
同じ試作を作り手も伏せた状態で評価し、外のパネルの平均と比べます。差が毎回大きければ、社内の試食だけで決めない理由になります。社内の試食の結果を「好評」と外に出すときは、伏せたかどうか・評価した人の立場・人数を一緒に書きます。
目安 数回分たまったら、作り手と外の平均点の差を見る
研究は学生が作った小物や家庭の料理で、チョコの配合を何度も直す開発者の評価とは条件が違います。食べ物では上乗せが出ない実験もありました。この記事の組み方は、試作で確かめる価値がある条件として使ってください。究極のチョコの3条件のうち「③もう一度買いたくなる」は、買う人の評価で決まるものです。作り手の手応えでなく、伏せた評価で確かめることが近道になります(好き度と購入意向の記事)。
04 まだわからないこと作り手の評価で、決まっていないことは?
チョコの試作で、作った人の評価が甘くなるかを調べた研究は見つかりませんでした。食べ物の実験も少なく、結果が分かれています。
- チョコや菓子の開発者・ショコラティエが、自分の試作をどう評価するかを調べた研究は、今回の調べでは見つかりませんでした。
- 食べ物の結果は分かれています。ミルクセーキでは好き度が上がり [2]、女性120人の実験では健康的な料理だけで上がり [3]、4〜6歳の子どもでは差がありませんでした [5]。
- 研究で作ったのは数分〜数十分の作業です。何週間も配合を直す仕事や、チームで作る試作でも同じ向きかはわかりません。
- 訓練を受けた官能評価のパネルや熟練者で、この上乗せが小さくなるかを調べた研究は見つかりませんでした。
- [2][3][4]は要旨だけで照合し、本文の点数は確かめていません。
05よくある質問
自分で作った試作はおいしく感じる?
チョコでの研究は見つかりませんでした。食べ物では、自分で作ったミルクセーキのほうが好かれ、多く飲まれた実験があります(Dohle ら 2014、60人)。ただし女性120人の実験では、上がったのは健康的な料理だけでした。
イケア効果とは?
自分で作った物を高く評価する傾向です。Norton ら(2012)の実験では、自分で折った折り紙に平均23セントを付け、作り手を知らない人は5セントでした。作って壊したり完成させなかったりすると、この上乗せは消えました。
社内の試食で決めてはいけない?
社内の試食は使えますが、配合した人や推している人の評価は甘くなる可能性があります。試作を番号で伏せ、作った人以外のパネルで評価し、作り手の点数は別に記録して比べると、ずれを確かめられます。
出典
- Norton MI, Mochon D, Ariely D (2012). The IKEA effect: When labor leads to love. Journal of Consumer Psychology, 22(3), 453–460.(数字はハーバード・ビジネス・スクールが公開している原稿版で確認) https://doi.org/10.1016/j.jcps.2011.08.002
- Dohle S, Rall S, Siegrist M (2014). I cooked it myself: Preparing food increases liking and consumption. Food Quality and Preference, 33, 14–16. https://doi.org/10.1016/j.foodqual.2013.11.001
- Dohle S, Rall S, Siegrist M (2016). Does self-prepared food taste better? Effects of food preparation on liking. Health Psychology, 35(5), 500–508. https://doi.org/10.1037/hea0000315
- Troye SV, Supphellen M (2012). Consumer Participation in Coproduction: "I Made it Myself" Effects on Consumers' Sensory Perceptions and Evaluations of Outcome and Input Product. Journal of Marketing, 76(2), 33–46. https://doi.org/10.1509/jm.10.0205
- Raghoebar S, van Kleef E, de Vet E (2017). Self-crafting vegetable snacks: testing the IKEA-effect in children. British Food Journal, 119(6), 1301–1312. https://doi.org/10.1108/BFJ-09-2016-0443


