テンパリング

チョコはなぜパキッと割れて口で溶ける?カカオバターのX線の研究では、ふつうの状態はV型の結晶だった

約8分で読めます / 主役の研究: Wille・Lutton 1966(米国の食品メーカーの研究部門)

研究の確かさ ★★★ 高い論文5本を照合
テンパリングしていないチョコの見本
Photo: SKopp / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された論文と公的機関の資料をAIが開いて読み、数字を照合して整理しました(商品の紹介はしていません。出典は末尾)。

よくできた板チョコは、割るとパキッと音がして、口に入れるとすっと溶けます。同じチョコでも、一度溶けて固まり直したものは、もろく、白っぽくなります。中身は同じなのに、何が違うのでしょうか。研究の答えは、チョコの油であるカカオバターの「結晶の形」です。

結論

  1. Wille と Lutton(1966)は、カカオバターを主にX線で調べ、溶ける温度の低い順にIからVIまで、6つの結晶の形を見つけた。チョコの中のふつうの状態はV型だと考えた。
  2. 最近の総説の表では、V型が溶ける範囲は約30.0〜34.5℃。口の中の温度に近いので、手では溶けにくく口ではすっと溶ける、と説明されている。
  3. V型になっていても、白く浮く(ブルーム)チョコがあると報告されている。V型だけで見た目や割れ方がすべて決まるわけではない。

01 どんな研究かカカオバターの結晶はいくつある?

米国の食品メーカーの研究部門の Wille と Lutton は、カカオバターを主にX線回折で調べ、結晶の形を6つ(I〜VI)に分けました。チョコのふつうの状態はV型だとしています。

R. L. Wille, E. S. Lutton / 米国の食品メーカーの研究部門(1966)[1]

カカオバターは、冷やし方や置き方によって、同じ油でも違う並び方の結晶になる。X線で調べると、溶ける温度の低い順に6つの状態(I〜VI)があった。チョコのふつうの状態はV型と考えられた。

対象: カカオバター(チョコそのものではない) / 限界: 論文は「VI型がブルーム(白い粉や膜)の正体だと言い切るのは早い」としている。今回は要旨までを照合し、本文の数字は確かめていない。

結晶の形がいくつもあることを「多形」といいます。成分は同じで、分子の並び方だけが違います。鉛筆の芯とダイヤモンドがどちらも炭素なのに硬さが違うのと、少し似ています。

その後、アムステルダム大学の van Malssen らは、X線を当て続けながら時間を追って変化を見る方法で、カカオバターの形の移り変わりを調べ直しました[2]。V型だけでなく、VI型も、その前の段階の結晶から直接できることがあると報告しています。

02 わかった数字V型は何℃で溶ける形なのか?

2025年の総説の表では、V型が溶ける範囲は約30.0〜34.5℃、もっとも安定なVI型は約33.5〜38.5℃です。値は文献ごとに少しずつ違い、カカオバターの成分でも変わります。

6つカカオバターの結晶の形(I〜VI)。主にX線で区別(Wille・Lutton 1966)
約30.0〜34.5℃V型が溶ける範囲。総説の表の値(Stobbs ら 2025)
約33.5〜38.5℃VI型が溶ける範囲。いちばん安定だが、ブルームと結びつけられる(Stobbs ら 2025)
約43%V型のカカオバターの結晶で、油の鎖の端が欠けて「穴」になっている割合の推定(Schenk・Peschar 2004)
形溶ける範囲(℃)チョコでの扱い
I13.0〜18.0不安定。すぐ上の形に変わる
II17.1〜24.0不安定
III22.4〜28.0中間
IV21.0〜33.0中間。テンパリングの途中でできる
V30.0〜34.5目標の形。つや・割れ・口どけ
VI33.5〜38.5いちばん安定。ブルームと結びつけられる

カナダ・ゲルフ大学の Stobbs ら(2025)の総説の表1より[3]。別の総説では6つの値を17.3・23.3・25.5・27.5・33.8・36.3℃と書いており[5]、文献で幅がある。

Stobbs らは、V型を「口の中の温度に近いところで溶け、チョコらしいパキッとした割れ、なめらかな口どけ、ブルームへの強さにつながる形」と説明しています[3]。一方、VI型は熱力学的にいちばん安定ですが、ブルームともろい食感と結びつけられています。

なぜV型は、いずれVI型へ変わってしまうのでしょうか。Schenk と Peschar は、X線のデータからV型の結晶の並び方を組み立てました[4]。V型では、油の鎖の端の位置が平均で57%しか埋まらず、43%は「穴」になっていると推定されました。この穴があるためV型は完全には安定でなく、少しずつVI型へ並び直そうとする、と説明しています。

結晶の形の違いは、実際のチョコでも見えます。Afoakwa ら(2008)は、ダークチョコを、ちょうどよく・やりすぎ・足りないの3通りにテンパリングして比べました[6]。足りないチョコはブルームが出て、表面も中の周りも白くなりました。やりすぎたチョコは硬くなり、つやが落ちて色が暗くなりました。

03 開発への使い方V型になったかを、試作と品質管理でどう確かめる?

テンパリングの度合いだけを変えた試作を並べ、結晶の形(V型の溶ける範囲)と、硬さ・つや・色・口どけを測って比べます。ただしV型と確かめた製品でもブルームが出た例があるので、出荷前の結晶の確認だけで保存性を保証しないことです。

1

配合・工程: テンパリングの度合いだけを3段階に振る

Afoakwa らと同じく、ちょうどよい・やりすぎ・足りないの3通りを作り、配合・冷やす温度・型はそろえます[6]。研究では、足りないとブルームで白くなり、やりすぎると硬くなってつやが落ち、色が暗くなりました。自社の配合で、どこからどこまでを合格とするかの幅を決める試作です。温度の決め方はテンパリングは何度で何をしている?にまとめています。

目安 3条件。配合と冷却の条件は固定

2

評価: 結晶は熱やX線で、仕上がりは機械と人で測る

結晶の形は、X線回折か、溶けるときの熱を測る方法(示差走査熱量測定)で、溶ける範囲がV型の約30.0〜34.5℃に入るかを見ます[3]。値は文献で幅があるので[5]、自社の基準品で測った値を物差しにします。仕上がりは、割るのに要る力(硬さ)・表面のつや・色を機械で測り、割れる音と口どけは訓練した評価者が尺度で点を付けます。

目安 各条件で同じ日・同じ室温で測る

3

品質管理: V型の確認と保存試験を分けて持つ

主にV型と確かめたのにブルームが出たチョコの例があるため[3]、製造直後の結晶の確認は「テンパリングが通ったか」の確認にとどめ、白くなるまでの日数は別に保存試験で見ます。白くなる仕組みはチョコが白くなったら食べられる?、保存温度の試験はチョコは冷蔵庫に入れていい?で扱っています。

目安 製造ロットごとに結晶の確認、保存試験は配合を変えたとき

6つの形はカカオバターだけを調べた研究[1][2]で、仕上がりの比較は研究で作ったダークチョコ1種類[6]です。乳脂やほかの油脂を含む配合、自社の冷却設備の条件とは違うので、合格の幅は自社のラインで測り直します。社内の試食記録には食べ比べノートも使えます。

04 まだわからないことV型にすれば、おいしいチョコになる?

V型はつやと割れの良さに結びつけられていますが、V型でもブルームが出るチョコが報告されています。V型の量や結晶の大きさとおいしさの関係は、まだ確かめられていません。

  • Stobbs らは、主にV型と確かめられたのにブルームが出たチョコの例を示し、「V型だけでは長く安定とは限らない」としています[3]。結晶の大きさやゆがみなど、もっと細かい構造が関わると考えられていますが、決着していません。
  • 6つの形が溶ける温度は文献によって違います。カカオバターの産地や成分で変わるため、ひとつの値に決められません。
  • V型とVI型で、人が食べたときの口どけや味の感じ方がどれだけ違うかを、人の評価で比べた研究は今回見つかりませんでした。
  • Wille と Lutton の論文の本文(各形の溶ける温度の表)は今回開けず、要旨までしか確かめていません。

テンパリング温度ガイド研究一覧を見る

05よくある質問

チョコをテンパリングするのはなぜ?

カカオバターの結晶をV型にそろえるためです。総説では、V型は口の中の温度に近い約30〜34.5℃で溶け、つや・パキッとした割れ・なめらかな口どけにつながる形と説明されています。テンパリングが足りないチョコはブルームが出て白くなったと報告されています。

カカオバターの結晶の6つの形とは?

溶ける温度の低い順にI〜VI型と呼ばれる、同じ油の違う並び方です。1966年に Wille と Lutton が主にX線で6つを区別しました。I・IIは不安定、III・IVは中間、Vがチョコの目標の形、VIがいちばん安定な形です。

溶けて固まり直したチョコがもろく白っぽいのはなぜ?

溶けたあとに温度をとらずに固まると、V型以外の形で固まったり、あとで形が変わったりして、ブルームが出やすくなるためと考えられています。ダークチョコの研究では、テンパリングが足りないと表面も中も白くなりました。

出典

  1. Wille RL, Lutton ES (1966). Polymorphism of cocoa butter. Journal of the American Oil Chemists' Society, 43(8), 491–496. https://doi.org/10.1007/BF02641273
  2. van Malssen K, van Langevelde A, Peschar R, Schenk H (1999). Phase behavior and extended phase scheme of static cocoa butter investigated with real-time X-ray powder diffraction. Journal of the American Oil Chemists' Society, 76, 669–676. https://doi.org/10.1007/s11746-999-0158-4
  3. Stobbs JA, Ghazani SM, Donnelly ME, Marangoni AG (2025). Chocolate Tempering: A Perspective. Crystal Growth & Design, 25(9), 2764–2783. https://doi.org/10.1021/acs.cgd.5c00269
  4. Schenk H, Peschar R (2004). Understanding the structure of chocolate. Radiation Physics and Chemistry, 71(3–4), 829–835. 数字は欧州シンクロトロン放射光施設(ESRF)による同じ研究の紹介ページで照合。 https://doi.org/10.1016/j.radphyschem.2004.04.105 / https://www.esrf.fr/UsersAndScience/Publications/Highlights/2004/SCM/SCM8
  5. Barišić V ほか (2019). The Chemistry behind Chocolate Production. Molecules, 24(17), 3163. https://doi.org/10.3390/molecules24173163
  6. Afoakwa EO, Paterson A, Fowler MR, Vieira J (2008). Effects of tempering and fat crystallisation behaviour on microstructure, mechanical properties and appearance in dark chocolate systems. Journal of Food Engineering, 89(2), 128–136. https://doi.org/10.1016/j.jfoodeng.2008.04.021