テンパリング

刻んだチョコを足すとなぜテンパリングできる?カカオバターの研究では、種が足りないと白くなった

約8分で読めます / 主役の研究: Kinta・Hartel 2010(日本の菓子メーカーの研究所と米国ウィスコンシン大学)

研究の確かさ ★★☆ 中論文5本を照合
テンパリング中の溶かしたチョコ
Photo: Roozitaa / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された論文と公的機関の資料をAIが開いて読み、数字を照合して整理しました(商品の紹介はしていません。出典は末尾)。

温度を上げ下げするテンパリングは、手間も時間もかかります。そこで、溶かしたチョコに刻んだテンパリング済みのチョコを足して混ぜる「シード法」がよく使われます。なぜ、固いチョコを足すだけで、うまく固まるのでしょうか。研究の答えは、足したチョコの中の結晶が「種」になるから、です。

結論

  1. カナダ・ゲルフ大学の総説では、V型の結晶をすでに持つチョコを、溶かしたチョコに足す方法を「シード」と呼ぶ。V型ができるのが早まり、仕上がりがそろいやすいと説明されている。
  2. 日本の菓子メーカーの研究所と米国ウィスコンシン大学の研究では、カカオバターの種が少ないとチョコは白くなった。きれいに固めるには、油の量あたり270ppm(0.027%)を超える種が必要だった。
  3. 研究で足したのは粉にしたカカオバターの結晶で、刻んだテンパリング済みのチョコではない。刻んだチョコを何割足せばよいかを確かめた研究は見つからなかった。

01 どんな研究か種の量が足りないと、チョコはどうなる?

Kinta と Hartel は、チョコに足すカカオバターの種の量を変え、表面の白い部分(ブルーム)を画像で測りました。種が足りないと、テンパリングしないチョコと同じように白くなりました。

Y. Kinta, R. W. Hartel / 日本の菓子メーカーの研究所、米国ウィスコンシン大学(2010)[1]

種が少ないと、明るい色の地に、こげ茶色の小さな丸が散らばるブルームが出た。種を増やすと丸どうしが重なり、明るい部分が消えた。画像で測ると、きれいに固めるには、油の量あたり270ppmを超える種が必要だった。

対象: カカオバターの結晶を種として足したチョコ / 限界: 著者の1人は菓子メーカーの研究所の所属。種は粉にしたカカオバターの結晶で、刻んだチョコではない。今回は要旨で照合した。

顕微鏡で見ると、理由がわかりました[1]。種が少ないと、安定な形(β)の結晶はまばらにしか育たず、その間を不安定な形(β′)の結晶が大量に埋めました。種を増やすほど、安定な結晶が早く、小さくそろってできました。著者らは、種が足りないと、安定な結晶がゆっくり大きく育つ間に、油と粒が分かれる時間と場所ができてしまう、と考えています。

シード法の考え方そのものは古くからあります。Stobbs らの総説は、溶かしたチョコに、テンパリング済みでV型の結晶を持つチョコを足す方法を「シード」と呼んでいます[2]。V型ができるのが早まり、仕上がりがそろい、温め直しの回数を減らせることがある、と説明しています。V型が何かはカカオバターの6つの結晶とV型にまとめています。

02 わかった数字種を入れると、固まり方はどう変わる?

種を入れたチョコでは、結晶がたくさんの場所から同時に育ち、すばやく網の目ができました。種がないと、場所によって大きな丸い結晶ができ、むらが出ました。

270ppm超きれいに固めるのに必要だった種の量。油の量あたり(Kinta・Hartel 2010)
0.5〜2%ナッツのペーストに足したカカオバターの種の量。2%ではチョコの溶ける温度が28日以上変わらなかった(Böhme ら 2021)
84日種を入れたペーストとチョコを重ね、23℃で保存して比べた最長の期間(Böhme ら 2021)

Svanberg ら(2011)は、カカオバターに砂糖・カカオの粒・レシチン(乳化剤)を足した「チョコのモデル」を作り、種を入れた場合と入れない場合で、結晶が育つ様子を顕微鏡で追いました[3]。種を入れると、たくさんの場所で結晶ができ始め、すばやく網の目が育ちました。種がないと、ある場所では大きな丸い結晶ができ、別の場所ではむらのある構造になりました。

同じグループは翌年、ダークチョコで、VI型のカカオバターの結晶を種にする方法と、ふつうのテンパリングを比べています[4]。種を入れてきちんと固めたチョコは、固まった直後から結晶がぎっしり、むらなく詰まり、ブルームと油のしみ出しを遅らせるのに最もよい状態でした。ただし、詰まりすぎると逆にむらができ、ブルームに弱くなりました。種は多ければ多いほどよい、とは言えません。

ドイツ・ドレスデン工科大学の Böhme らは、ナッツのペーストを詰めたチョコで、ペースト側にカカオバターの種を入れました[5]。23℃で保存すると、種を入れたものは、ペーストの油がチョコへしみ出しにくく、ブルームに強くなりました。総説が紹介した古い研究では、カカオバターと成分が近い種ほど、よく効いたとされています[2]。

03 開発への使い方シードの種類と量を、試作でどう決める?

種の種類(刻んだテンパリング済みのチョコか、粉にしたカカオバターの結晶か)と量を1つずつ振り、表面の白さを画像で測って比べます。270ppmは粉にしたカカオバターの種での値なので、刻んだチョコの量には換算しないことです。

1

配合・工程: 足す温度を固定し、種の量だけを段階に振る

種のV型が残るよう、足す温度はV型が溶ける範囲(約30〜34.5℃)より下で固定します。そのうえで種の量だけを3段階ほどに振ります。Svanberg らの研究では、種で結晶が詰まりすぎると逆にむらができてブルームに弱くなったので[4]、多い側にも段階を置きます。足す前と混ぜ終わりの温度はテンパリングは何度で何をしている?の表と照らします。

目安 種の量3段階。温度・攪拌の時間は固定

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評価: 白い部分の面積を画像で測る

Kinta と Hartel と同じく、固まったチョコの表面を同じ光で撮り、白い部分(ブルーム)の割合を画像で測ります[1]。目で見るより、条件ごとの差を数字で残せます。結晶の形は、溶けるときの熱を測ってV型の範囲に入るかで確かめます。中に詰め物がある製品は、Böhme らのように23℃などで保存し、詰め物の油がしみ出す様子とブルームを期間を決めて比べます[5]。

目安 研究では最長84日、23℃で保存して比較

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品質管理: 種にするチョコそのものを管理する

種の働きは、種にV型の結晶が残っていることが前提です。種にするチョコは白くなっていないテンパリング済みのものに限り、白くなったものは種に回さず溶かし直します。種の保管温度と使う期限も決めておきます。白くなる仕組みはチョコが白くなったら食べられる?で読めます。

目安 種のロットごとに、つやと割れを確認

研究の種は粉にしたカカオバターの結晶[1]、結晶の育ち方はカカオバターに材料を足したモデル[3]、保存の試験はナッツのペーストに種を入れた詰め物入りのチョコ[5]です。刻んだチョコを種にする自社の工程とは条件が違うので、量は自社の試作で決めます。社内の試食記録には食べ比べノートも使えます。

04 まだわからないこと刻んだチョコは何割足せばいい?

刻んだチョコを何割足せばよいかを比べた研究は見つかりませんでした。270ppmという値は、粉にしたカカオバターの種を足したときのものです。

  • 刻んだテンパリング済みのチョコに、V型の結晶がどれくらい含まれるかは測られていません。だから、刻んだチョコでの「必要な量」は、270ppmから計算できません。
  • Svanberg らの2011年の実験は、カカオバターに材料を足したモデルで、本物のチョコではありません。
  • 種の粒の大きさや、混ぜる時間がどれだけ効くかを、刻んだチョコの種で調べた研究は見つかりませんでした。
  • Böhme らの研究で種を入れたのは、チョコではなく中に詰めたナッツのペーストです。

テンパリング温度ガイド研究一覧を見る

05よくある質問

シード法とは?

溶かしたチョコに、V型の結晶をすでに持つテンパリング済みのチョコを足して、結晶の種にする方法です。カナダ・ゲルフ大学の総説では、V型ができるのが早まり、仕上がりがそろいやすいと説明されています。

シード法で刻んだチョコは何割入れる?

研究で確かめられた割合は見つかりませんでした。カカオバターの種を足した研究では、油の量あたり270ppm(0.027%)を超える種が必要でしたが、刻んだチョコに含まれる結晶の量は測られていないので、そのまま当てはめられません。

シード法で失敗して白くなるのはなぜ?

種が足りないか、温度が高くて種が溶けたためと考えられます。カカオバターの種を足した研究では、種が少ないと安定な結晶がまばらにしか育たず、テンパリングしないチョコと同じように白くなりました。

出典

  1. Kinta Y, Hartel RW (2010). Bloom Formation on Poorly-Tempered Chocolate and Effects of Seed Addition. Journal of the American Oil Chemists' Society, 87, 19–27. https://doi.org/10.1007/s11746-009-1473-5
  2. Stobbs JA, Ghazani SM, Donnelly ME, Marangoni AG (2025). Chocolate Tempering: A Perspective. Crystal Growth & Design, 25(9), 2764–2783. https://doi.org/10.1021/acs.cgd.5c00269
  3. Svanberg L, Ahrné L, Lorén N, Windhab E (2011). Effect of sugar, cocoa particles and lecithin on cocoa butter crystallisation in seeded and non-seeded chocolate model systems. Journal of Food Engineering, 104(1), 70–80. https://doi.org/10.1016/j.jfoodeng.2010.09.023
  4. Svanberg L, Ahrné L, Lorén N, Windhab E (2012). Impact of pre-crystallization process on structure and product properties in dark chocolate. Journal of Food Engineering, 114, 90–98. https://doi.org/10.1016/j.jfoodeng.2012.06.016
  5. Böhme B, Bickhardt A, Rohm H (2021). Pre-Crystallization of Nougat by Seeding with Cocoa Butter Crystals Enhances the Bloom Stability of Nougat Pralines. Foods, 10(5), 1056. https://doi.org/10.3390/foods10051056