テンパリングせずに冷やし固めてもいい?市販チョコを溶かし5℃で固めた研究では、曲げの硬さが半分に

溶かしたチョコを型に流して冷やせば、とりあえず固まります。テンパリングの工程を省いて冷やし固めた製品は、何が違うのでしょうか。カナダの研究室が、溶かした市販のチョコを5℃で固めただけのものを測ると、見た目の白さはほとんど変わらないのに、曲げたときの硬さは新品の半分ほどでした。
結論
- カナダ・ゲルフ大学の Chen ら(2021)は、市販のダークチョコを溶かし、5℃で1時間固めてから20℃に4日置いた。曲げの硬さ(パキッと割れる強さの目安)は新品の約半分(74.7→36.6 N/mm²)だった。
- 結晶はどちらもV型と判定され、溶ける温度も白さの数値もはっきりした差はなかった。同じ大学の総説では、テンパリングしないチョコは割れ目が多く、長く置くと白くなった。
- 見た目だけでは分からない差が出る、という段階。冷やし固めただけのチョコを、人が食べて比べた研究は見つからなかった。
01 どんな研究か溶かして冷やしただけのチョコは何が違う?
Chen らは、市販のダークチョコを湯せんで溶かし、5℃で1時間固めてから20℃で4日置きました。新品のまま(工場でテンパリング済み)のものと、硬さ・溶ける温度・表面の白さ・結晶の形を比べました。
J. Chen, S. M. Ghazani, J. A. Stobbs, A. G. Marangoni / カナダ・ゲルフ大学 食品科学科、カナディアン・ライト・ソース(2021)[1]
溶かして5℃で固め直したチョコは、結晶の形はV型のままでも、3点曲げで測った硬さが新品の約半分に下がった。著者らはこのチョコを「きちんとテンパリングされていない」比較用として扱った。
対象: 市販のカカオ分90%のダークチョコ1種類。縦35×横19×厚さ5mmの型で固めた / 限界: 研究の主な目的は、ごく少量のリン脂質(0.1%)を足すとテンパリングなしで固まるかを調べることで、冷やしただけのチョコは比較用の1条件。人が食べて比べてはいない。
この研究で目を引くのは、「冷やしただけ」でも結晶の形はV型と判定されたことです。X線で調べると、新品も、溶かして固め直したものも、V型の結晶でした[1]。溶ける温度も33.3℃と33.6℃で、はっきりした差はありません。それでも硬さは半分でした。著者らは、結晶の形だけでは硬さは決まらず、結晶のつながり方(微細な構造)の違いが効いていると考えています。V型そのものの説明はカカオバターの6つの結晶とV型にまとめています。
同じゲルフ大学の Stobbs ら(2025)の総説も、同じ向きのことを書いています[2]。テンパリングしたダークチョコとしないダークチョコは、どちらも主にV型でしたが、曲げの硬さは427 N/mm²と97.6 N/mm²で、大きく違いました。テンパリングしないチョコは、X線で見るとIV型とV型が混ざっていることが多く、ときにはIII型も少し含まれていた、とも書かれています。
02 わかった数字冷やし固めると、どれくらい変わる?
硬さは約半分になりました。表面の白さと溶ける温度には、はっきりした差は出ませんでした。長く置くと、テンパリングしないチョコは割れ目が多く、白くなりました。
| 測ったもの | 新品(テンパリング済み) | 溶かして5℃で固め直し |
|---|---|---|
| 曲げの硬さ(N/mm²) | 74.7 | 36.6 |
| 溶ける温度 | 33.3℃ | 33.6℃ |
| 表面の白さ | 38.9 | 43.6 |
| 結晶の形(X線) | V型 | V型 |
Chen ら 2021 の表2より。白さはスマートフォンで撮った写真の色から計算した数値。
割れ目は、外からは見えにくい差です。Stobbs らは、放射光という強いX線でチョコの中を立体的に撮影し、テンパリングしないチョコには大きな割れ目が網のように広がっていると報告しました[2]。割れ目の体積は7.9%で、工場でテンパリングしたチョコには大きな割れ目は見られませんでした。著者らは、結晶が勝手に育つときのゆがみを逃がすために割れ目ができ、それが白くなること(ブルーム)と強く結びついている、とまとめています。
別の論文では、テンパリングしないチョコの作り方も書かれています[3]。約34℃まで冷ましただけで型に流し、18℃で48時間固めたものです。冷蔵庫ほど冷たくはありませんが、これも割れ目が多いチョコになりました。総説では、1年ほど保存すると、テンパリングしないチョコには白い膜が出ました[2]。ただし同じ保存で、テンパリングしたチョコにも程度の差はあれ白い膜が出ています。テンパリングは白くならない保証ではありません。
日本の Kinta と Hatta(2005)は、テンパリングしないで白くなったチョコを分析しました[4]。白っぽい部分は油が少なく、こげ茶の部分は油が多い状態でした。油が表面に浮き出たのではなく、結晶が育つときにまわりの油を引き寄せ、油の多い所と少ない所ができた、と考えられています。
03 開発への使い方テンパリングを省く工程は、何を測って判断する?
テンパリングを省く・短くする工程や配合を検討するなら、表面の白さだけでなく、曲げの硬さと中の割れ目まで測って比べることです。研究では、白さの数値と結晶の形に差がなくても、硬さは半分になりました。
配合・工程: 「テンパリングあり」と「冷やしただけ」を必ず基準に並べる
Chen らの研究そのものが、ごく少量のリン脂質(0.1%)を足してテンパリングなしで固める配合を調べるためのもので、冷やしただけのチョコはその比較用でした[1]。新しい工程や配合を試すときも、同じチョコで「テンパリング済み」「溶かして冷やしただけ」の2つを並べ、その間のどこに入るかで判断します。冷やす温度と時間は1つだけ変えます。
目安 研究では5℃で1時間固め、20℃に4日置いてから測定
評価: 結晶の形だけで合否を決めない
研究で測ったのは、3点曲げの硬さ(N/mm²)、溶ける温度、表面の白さ(写真の色から計算した数値)、X線での結晶の形でした[1]。冷やしただけでもV型と判定されたので、X線や溶ける温度だけでは差を見落とします。硬さを機械で測り、割れる音と口どけは訓練した評価者が尺度で点を付けます。中の割れ目は、研究では放射光のX線で撮っています[2]。
目安 同じ厚さの型で作り、同じ日数置いてから測る
品質管理・保存: 白くなるまでの日数を保存試験で確かめる
テンパリングしないチョコは中に割れ目が多く、約1年の保存で白い膜が出ました[2]。同じ保存でテンパリングしたチョコにも白い膜は出ているので、どちらの工程でも、賞味期間と保存方法の書き方は自社の保存試験で決めます。何日で白くなるかの研究はチョコは何日で白くなる?にまとめています。
目安 製造直後と、決めた間隔で白さと硬さを測る
比べたのは、カカオ分90%の市販のダークチョコ1種類を、縦35×横19×厚さ5mmの小さな型で固めたものです[1]。配合・厚さ・冷却の設備が違う自社の製品で同じ差が出るかは、試作で確かめます。温度の決め方はテンパリングは何度で何をしている?、種を足す方法はシード法で読めます。社内の試食記録には食べ比べノートも使えます。
04 まだわからないこと冷やし固めただけのチョコは、食べて差がわかる?
硬さと割れ目は機械で測られていますが、冷やし固めただけのチョコを人が食べて、口どけや好みを比べた研究は見つかりませんでした。おいしさの差はまだわかりません。
- Chen らの比較は、カカオ分90%の市販のダークチョコ1種類だけです。ミルクやホワイトで同じ差が出るかは調べられていません。
- 5℃で1時間固めたあと20℃に4日置いた条件です。低温のまま長く置いた場合や、ほかの冷やす温度・時間は測られていません。
- 白さの数値はスマートフォンの写真から計算したもので、長く保存したあとの白さは、この研究では比べていません。
- 総説の硬さ427と97.6の比較は、試料の作り方や枚数が総説の中では詳しく書かれていません。
05よくある質問
テンパリングせずに冷やし固めたチョコは、品質がどう違う?
研究で見つかった差は、硬さが半分ほどになること、中に割れ目が多いこと、長く置くと白くなりやすいことで、安全の問題ではありません。白くなったチョコについては、カナダ食品検査庁が健康への害はないとしています。
冷やしただけでもV型の結晶になる?
カナダ・ゲルフ大学の研究では、溶かして5℃で固め直したチョコもX線ではV型と判定されました。それでも曲げの硬さは新品の約半分でした。総説では、テンパリングしないチョコにはIV型が混ざっていることが多いとされています。
テンパリングしないとどれくらいで白くなる?
Stobbs らの総説では、約1年の保存でテンパリングしないチョコに白い膜が出ました(同じ保存でテンパリングしたチョコにも出ています)。テンパリングが不十分なチョコでは、もっと早く白くなる研究もあり、何日で白くなるかの記事にまとめています。
出典
- Chen J, Ghazani SM, Stobbs JA, Marangoni AG (2021). Tempering of cocoa butter and chocolate using minor lipidic components. Nature Communications, 12, 5018. https://doi.org/10.1038/s41467-021-25206-1
- Stobbs JA, Ghazani SM, Donnelly ME, Marangoni AG (2025). Chocolate Tempering: A Perspective. Crystal Growth & Design, 25(9), 2764–2783. https://doi.org/10.1021/acs.cgd.5c00269
- Stobbs JA, Ghazani SM, Tu K, Pensini E, Fameau AL, Marangoni AG (2025). Dimyristoylphosphoethanolamine Addition During Chocolate Manufacture Promotes Proper Tempering under Simple Cooling Conditions without Shear. Crystal Growth & Design. https://doi.org/10.1021/acs.cgd.5c00575
- Kinta Y, Hatta T (2005). Composition and Structure of Fat Bloom in Untempered Chocolate. Journal of Food Science, 70(7), s450–s452. https://doi.org/10.1111/j.1365-2621.2005.tb11491.x


